マンガ翻訳家Zack Davissonの日本語学習アドバイス

Japanese Learning Advice from Manga Translator Zack Davisson by tofugu.com
" Zack Davisson氏は数々のアイズナー賞(アメリカで最も権威ある漫画賞の一つ)を受賞した漫画作品の翻訳を手がけてきてきました。今回我々は彼に日本語を学ぶためのアドバイスとコツを読者の皆さんと分かち合ってもらえないかとお願いしました。彼の考えがあなたの日本語の生涯学習に役立つことを願っています。" by tofugu.com



私が一番よく尋ねられる質問の1つは 「日本語を習得するまでどれくらい時間がかかった?」というものです。 その質問に対する答えはいつも同じです。「私は日本語の勉強を止めた事はないよ。

中学生の頃、正確に言えば1985年、私が初めて日本語の授業を受けたその日から今日までそのプロセスは絶え間なく続いてきました。

何千ものページを翻訳してきたプロの漫画翻訳者になった今でも、私は学習を「完了」していません。新しいことを学ぶと同時に古いことを忘れ、慣れ親しんだ漢字を見て「ああ、そういえばこの漢字は数年前にテストのために学んだんだっけか。」そう思い返す日々です。

それは生涯にわたるプロセスです。日本語の勉強を始めたいなら学び終える事などないと心得てください。あなたは長い間日本語の勉強に身をおく必要があるのです。これがレッスン ナンバー1です。

では他に何があるか? そうですね...

生涯にわたるプロセスと言いましたが 率直に打ち明けると、私が皆さんにお伝えする日本語を学ぶ上でのアドバイスは必ずしも実用的であるとは言えないかもしれません。誰もが私と同じような時間を日本語を学ぶために費やす必要はありません。結局のところ私は生きるために翻訳している訳で、それは誰もが持っている目標ではありませんから。

しかしあなたがもっと高いレベルの日本語能力を得たいと思っているのなら、私がしてきた事を参考にしてみてはいかがでしょう。

1.日本へ移住する


いきなりハードルの高いものが出てきましたね。でもこれは私にとって最も重要な事だったのです。

確かに私は中学校で日本語を勉強し始めました、ですが当時学んだ事はほんの僅かです。いくつかの定型的なフレーズや挨拶を覚えたくらいで私の日本語知識はほぼありませんでした。高校では日本語クラス自体が存在しなかったので大学で再び学び始めるまで4年間のブランクがありました。

大学ではしっかりと学びましたが日本語を自分のものにできたという感覚はなく、私の日本語能力はあくまで暗記レベルのものでした。私は卒業後、コミュニティカレッジの夜間授業を受け日本語の勉強を続けましたがそれでもやはり上手くいきません。それは私が感覚派の人間だったからでしょう、体系的な学習ではうまく身に付いた気がしなかったのです。

日本語を本当に理解するために私に欠けた何かを見つけ、直接人々と接し経験する、それが日本語のマスターのためには必要なのだと自覚しました。それは日本語に限らず全ての言語学習において真理と言えるものでしょう。

日本語は内面化しなくてはいけないものだという気持ちが私には常にありました。学ぶよりも体験することこそが必要と感じた、それが私が日本に移住した理由です。

日本への移住? そんなのは無理だ!」 そう思われるかもしれませんが、それはあなたの気持ち次第です。

そしてその決意は早ければ早いほど良いです。私は高校時代に交換留学生として日本へ行く勇気があったならばといつも後悔しています。その代わりに私は30歳になるまで待ち、JETプログラムについて学びました。それは日の出ずる国への切符であると同時に流暢さへの切符でもありました。(あなたにとってもそうかもしれませんよ)

ただし日本を訪れた事がないのに日本語が流暢な人はいますし実際に会ったこともあります。でも私は彼らの様になれるとは思えなかったのです。

2.バーにたむろする

BEST BARS IN TOKYO- GOLDEN GAI // Vlog 私は日本を訪れて直ぐに2つの重要なレッスンを学びました。

私は思った以上に日本語の知識が足りていない。 大学で数年間フォーマルな日本語の勉強をしたレベルであっても、私が覚えてきた語句や表現、単語はほとんど機能しませんでした。

普通の人々は文法的に正しく整った構造で話をしたりしません。彼らはあらかじめ決められた語彙に縛られず、ユニークな言葉遣いをし、スラングを多用します。私は話を理解することができず、また誰も私の言う事を理解できませんでした。

誰も私に日本語で話そうとしたがらない。 日本に着いたばかりの外国人に対し、ほとんどの日本人は私に日本語を教えるよりも英語を練習することに関心を持ちます。

私の日本語での会話能力はあまりにも限られていたので会話は実質不可能でした。そしてほとんどの日本人は私の限られた語彙からなんとか言葉が紡ぎ出される事を待つよりも、英語を練習できるという絶好の機会を逃さないということの方に気を向けてしまいます。
解決策:バーに行こう。

私はすぐにあることを発見しました、日本の人々が飲酒している時にとてもゆるんでいるということを。 同じ場所に何度も何度も行き続けると、やがてあなたもその群衆の一部となれるのです。人々はあなたと話し始める、彼らはコミュニケーションの努力をしてくれます。

例え会話できるだけの言語力がなくとも座って話を聞くだけできっと日本語を学ぶ助けになるはずです。あなたが知っているいくつかの単語に集中するだけで、やがてゆっくりと理解できるようになります。

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ずいぶんと簡単に言ってくれるじゃないかと思いましたか? 安心してください、簡単ではありません。バーでたむろすることは魔法ではありませんから。バーの椅子に言語力ゼロで座っていても日本語能力試験 JLPTのN1レベルの会話ができるはずもありません。(N1~N5までありN1が最も難しい)

私は日本にいる間もフォーマルな日本語の勉強を続け、日本語能力試験で上級者の検定証を取得しました。そのような本に向かっての学習という基礎がバーでの会話に生かされたのです。

正直なところ、私が今まで日本語の授業で学んできた時間すべてよりも、私が地元のバーで過ごした時間の方が日本語の勉強に役立ったと思っています。バーで日本語を話すことを続けていくうちに いつでも対応できるように構えられ、会話の間に入る事も、会話のギアをすばやくあげる事も可能にさせてくれました。

やがて話されている言葉のうち、理解できる単語が7つ中5つだけでも、話されている事の意味を理解することができる能力を得られます。私が今まで受けてきた授業では日本語の話し方を教えていましたが、バーでは日本語で考える方法を教えてくれたと言えます。

そしてなにより、バーで過ごした時間はとても楽しいものでした。

3.家中にラベルを貼る


ええ、これは簡単です、あなたがどこに住んでいても実行可能です。私は家の中のすべてのものに日本語のラベルを貼りました。自分の生活環境を勉強机に変えたのです。見るもの全てが日本語と直結されます。

"ビール"を取りに"冷蔵庫"に向かえばもうこの時点で2つの日本語の単語が目に入ります。もちろんソファーにもテレビにもラベルが貼られています。

それは私の家を幾分ばかげた空間にしました。そして誰かが家を訪ねてきた際には恥ずかしい思いをする、その覚悟が求められましたがそれほど大きな問題ではありませんでした。私は日本語をマスターすることに対しとても献身的でしたので。

4.日本語を学ばなければ体験できない愛せる何かを見つける


私が日本に着いたとき、マンガアーティストの"水木しげる"と日本の奇怪な"妖怪"と呼ばれる物がいたるところにありました。私はすぐにそれらに魅了されました。 しかし彼の作品は当時は一度も英語に翻訳されておらず、彼の作品よりも魅力を持った妖怪を扱った本も見つけることができませんでした。

ですが当時の私の日本語力では理解できません。その素晴らしい世界が閉じ込められた扉を開く鍵はやはり言語力でした。

私は実際に読むことができないたくさんの本や漫画を買い、一つ一つの漢字調べるという苦労をしながら読み進めていきました。1つのトピックを選択してそれに固執することの利点は、同じ語彙を何度も繰り返し見ることになる ということです。これは言語学習において必要とされる繰り返しを、何にも関連付けられる事のない単語ノートなどではなく、文脈で学習できるということを意味します。

そしてこれが機能するためには、日本語でしか見つからないものを見つけなければならないという事を覚えておいてください。そうすれば英語で書かれた物を読むなどというズルはできなくなります。

5.日本人の(本物の)友人を作る

“Eating Soba with Japanese friends” by Ivan Mlinaric is licensed under CC BY 2.0 このステップの鍵は、練習に付き合ってくれる人ではなく、本当の友達です。

私は日本に住んでいたとき、お互い言語レッスンを求めている、潜在的に友人になれそうな日本人たちに遭遇しました。ですが後に私は彼らにチャーミングなニックネームを与える事になります。「言語ヒル」です。あなたは人ではなくなります、生きた練習ダミーと化すのです。

日本人の "友達"をあなたの言語学習の向上のために悪用しないでください。誰もそのように扱われたくないのです。私が言っているのは"本当の友達"のことです。一緒に遊ぶことができ、夕食に行き、テレビ番組についての話ができる友達です。それは人生だけでなく、言語の習得においてもプライスレスな存在です。

きっとこの時点で皆さんはこう思ったでしょう。「それは素晴らしいアドバイスだ。でもね、実際に日本人の友達をどうやって作ればいいって言うの?」

私の場合、それは今まで紹介した1から4までのステップを何度も繰り返した結果でした。 私は本当の友人を作れるまでにおそらく3年はかかったと思います。その人とはもっと前から知り合っていましたが真の友人と呼べるまではそのくらいかかりました。

彼は語り合うことができる友であり、共に遊びにいける友であり、日本語で話をしても違和感を感じず自然体でいられる、そんな人です。それからも何人も友人を作ることができ、今もとても仲良くしています。

大切なのはやはり人です

私はステップ1で
"日本語を自分のものにできたという感覚がない"
"日本語を本当に理解するために私に欠けた何かを見つけたい"
そう言いました。

その足りなかったものとは人だったのです。それは本や映画、おもちゃや食べ物ではありません。

あなたが直接話すことができる本物の人間、そしてあなたが彼らの言葉を話さない限り話すことができない人です。 私が出会った人こそが私が日本語を学ぶ理由です、勉強を続ける本当の理由です(現在 学んだ日本語で給料を頂いていますが、それは目的というよりもボーナスといった所です)。

そしてあなたが1から5までのステップに従えば、さらに素晴らしいものを得ることができるかもしれません。 私のように、数年前には一緒に一杯のコーヒーを飲むことすらできなかった人と結婚しているかもしれません。彼女を妻として迎え入れ、共に全てを分かち合い、そのほとんどの時間を共に過ごすることができたのも日本語とめぐり合ったおかげです。

素晴らしい人たちと出会えた事、それはプロの翻訳者になれたことよりもはるかに重要なことでした。

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“Studying” by Emmanuel Huybrechts is licensed under CC BY 2.0