米国メイン州の新聞『 Bangor Daily News』より

日本から来たこれらの機械はアメリカ・メイン州をホタテ養殖で有名にするかもしれない

These machines from Japan could put scallop farming in Maine on the map - April 29, 2018

“まるでカーテン、女川のホタテ養殖 水揚げ徐々に回復” by 朝日新聞社 米国最北東部に位置するメイン州、ここで今行われているプロジェクトは新たな助成金により後押しされ、日本国外で初めての半自動の商業的なホタテ養殖事業を確立しようとしている。

ワシントンD.C.の食品農業研究財団からメイン州南西部海岸の町であるブランズウィックの事業開発組織・CEIに拠出された300,000ドルの助成金は、メイン州の沿岸水域で行われている日本式のホタテの養殖技術の経済的な実行可能性を探るプロジェクトの助けとなっている。



この取り組みの一環として地元でムラサキイガイの養殖を行うBangs Island Mussel社と牡蠣の養殖を行うPine Point Oyster社は、海中に垂直に垂らされたロープにホタテを固定し養殖する "垂下式養殖" をする上で必要とされる労働集約的なプロセスの多くを自動化してくれる日本製の機械を試している。

(ホタテガイの垂下式養殖は北海道南部と東北地方沿岸で発展した集約的な海面養殖。)

ブランズウィックの事業開発組織・CEI(Coastal Enterprises Inc.)のHugh Cowperthwaite氏によるとこの機械をテストすること、そして改造の可能性を探ることはメイン州産のホタテ市場を開拓しようとする試みの一つだという。

3年間の助成金を管理しているCEIは、この方法によって養殖されたホタテ貝の潜在的な需要を測るために市場調査を行い、さらに関心のある水産養殖者のための「ハウツー」マニュアルを書くことを計画しているとCowperthwaite氏は付け加えた。
現在のところロープを使ったホタテ貝の養殖は、アメリカ北東部で行われているホタテ漁業の収獲量の多さと比較的低い生産コストには敵わないため、経済的に実行可能な専門市場を探らなければならない可能性が高いと同氏は述べている。だが彼はこうも述べる。

ホタテの養殖がメイン州の新たな、そして持続可能な雇用創出産業となり得るか? 我々はそう考えており、それを証明しようとしている

Cowperthwaite氏はこの日本の機械を使用した試験的なプロジェクトがホタテ養殖の経済性と収益性を特定するのに役立つと付け加える。

 「設備コスト、機械の輸送とメンテナンス、人件費、ホタテの成長率、そしてホタテを売る上でのバリューチェーンを分析している。」

ホタテの養殖と異なる品種の開発を探ることは、メイン州の既存のホタテ産業のための多様化戦略の一つだと彼は続けた。



過去10年間でホタテ貝に対する需要は大幅に増加した。そのため乱獲や資源管理の問題が浮上しメイン州は持続可能な漁業の推進するために規制を設ける。

最も大きな変化は "rotating closure " システムの導入だ、これは海岸沿いの地域を区間に分け、自然界に存在するホタテを収穫した後に漁場を回復させるために2年間閉鎖し、その後1年間開放しまた閉鎖するというものだ。

だがそれは需要が高まる中で供給量を抑えようとする行為でありホタテの市場価格を押し上げることに繋がった。ホタテ貝に対する市場の需要はメイン州が供給できる量をはるかに上回っているのが現状だ。

メイン州のホタテ漁業は毎年12月から4月中旬にかけて行われているが、2010年にはホタテの価格が平均で1ポンドに対し$8だったものが、過去6年間で11.50ドル近くになった。またメイン州の2017年のホタテの収穫高は930万ドルで過去24年で最高に達している。
このプロジェクトに参加するBangs Island Mussel社とPine Point Oyster社は、そのような状況が養殖ホタテに注目を集めさせることを期待している。

彼らは日本の貝養殖に関連した資材や機器の設計製作販売を行う会社である 『むつ家電特機』 によって開発され製造された機械を使用している。 ホタテの養殖では陸上での作業工程が多く人手を要するのだが、これらの機械によって労働の合理化を図ろうとしているのだ。

だが両社はまずこの日本のホタテを扱うために開発された機械がアメリカ東海岸のホタテを扱うことができるか、またはそれに適した改造ができるかどうかを把握する必要がある、アメリカのホタテは日本のそれに比べ小ぶりで壊れやすいのだ。

導入された『むつ家電特機』の機械の1つは大きさによってホタテを分類し、もう1つはそれぞれのホタテの蝶番に穴を開ける。

貝の選別装置『選太郎 MS-300』 : 株式会社むつ家電特機 より引用

稚貝の孔聞け装置『新型ホタテドリル MD-120』 : 株式会社むつ家電特機 より引用

その後人間の手でプラスチックのピンをその穴に挿入し、養殖用のロープに沿ってそれらを均等に離して取り付けなければならない。

高圧水で貝の表面付着物を除去する洗浄機『洋上クリーナ 2重ネット MK-351』
そして3つ目の機械は後の工程で使用される、海洋に漂っていた間にホタテの貝殻に蓄積する有機物を洗浄するために収穫の際に使われるものだ。

(これらの機器はほとんどの日本のホタテガイ養殖漁家に導入されているとのこと。ソース: ホタテガイ垂下養殖施設用空気式浮沈装置に関する研究 )



Bangs Island Mussel社のMatt Moretti社長は、ロープでホタテ貝を育てる方法(垂下式養殖)は、日本では海底に寝かせたケージでホタテを成長させる方法よりも優れていることが証明されたと語る。

個々のホタテはカキやハマグリなどの他の二枚貝よりも多くの空間を必要とし、高い密度で一緒に塊状になっていると互いに傷つける可能性があると彼は言う。

この方法が大西洋の海のホタテ貝にも効果的であると証明されれば、同社は養殖されたホタテを一貫して生産できる可能性があると彼は続けた。

「それは大きな違いを生みます、特にこれらの機械の支援があった場合は。」

彼は垂下式養殖に対してそう述べる。

「我々はこのプロジェクトに対して非常に興奮しています。メイン州の経済にも大きな恩恵を与える可能性すらあると思っています。」



CEIのCowperthwaite氏はメイン州で養殖によって収穫されるホタテの量は、毎年メイン州の沿岸で収穫される自然界のホタテの量には当分遠く及ばないだろうと指摘するが、殻付きのホタテを流通させることで小規模な市場を開拓したホタテ販売業者であるTogue Brawn氏はCEIと水産養殖会社に養殖ホタテにも需要を作り出す方法があると助言する。

養殖業者には漁師と同じ保全措置を取る必要がないのが強みだと彼は言う。例えば自然界に存在するホタテ貝は4インチより小さかった場合販売してはならないという規制があるが養殖の場合それは適応されない。また漁師は、特に免除されていない限り、海で収穫したホタテの貝殻と内蔵を捨てる必要があるが養殖ならば殻ごと販売できる可能性があるという。さらに牡蠣の養殖業者がするように、様々な品種を生産/開発することができると彼は述べた。

Cowperthwaite氏もホタテを安定的に養殖する方法を開発することができれば、メイン州のホタテ養殖業者も自社製品のニッチ市場を見つけることができると確信していると語る。

「課題はまだ多い、だがいずれは良い方向に向かうと信じている。」

Cowperthwaite氏は最後にそう語った。



(メイン州海洋研究所が青森のホタテの垂下式養殖を取材した動画)

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メイン州の都市ポートランドの新聞『The Portland Press Herald』の 記事 より補足


メイン州のホタテの収穫量はピークの1981年には380万ポンドもあったものが2004年には5.4万ポンドにまで激減、州は様々な規制を設ける。それと同時に漁業関係者は日本の "ホタテの種苗生産" を参考にその数を回復させる。

ホタテ貝は産卵→受精後に浮遊幼生となり約35日間海中を漂いある程度の大きさになると様々なものに付着する。その時期に採苗器という二重の網を海中に設置しこれに浮遊幼生を付着させ0.8~1.0cmになるまで育つのを待ち収穫、その稚貝を放流するのがホタテの種苗生産だ。

その結果メイン州資源省によればその数は2011年には175,116ポンドに、2015年には452,672にまで回復した。

しかし収穫量が増えたにもかかわらずホタテの供給は需要に追いつかず、そのギャップを埋めるために漁業関係者は再び日本に向かった。

1994年にメイン州は日本の青森と友好都市関係を結び、それ以来技術や人材の交流が進んだが、その中にいたのがCowperthwaite氏だった。2010年に青森を訪れた彼はそこでホタテの垂下式養殖に出会う。

「メイン州の水産物の漁獲量が減少し続けていることは公然の事実だ。さらにこの業界は特定の種類、特にロブスターに非常に依存している。養殖業を営む人々や漁師は収入を多様化させる方法を模索しておりこれはそのチャンスだ。」

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