『Isle of Dogs(犬ヶ島)』の問題点を指摘する海外記事の一部


"ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』がCultural appropriation(文化の盗用/文化の簒奪)だと非難される"
オーストラリアのデジタルメディア『Junkee Media』
Wes Anderson’s ‘Isle Of Dogs’ Has Been Accused Of Cultural Appropriation
http://junkee.com/isle-of-dogs-cultural-appropriation/152070



"ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』は彼の最高の作品であり最悪の作品だ"
アメリカの1980年前後から2005年に生まれたミレニアル世代向けメディア『Mic』
‘Isle of Dogs’ is Wes Anderson at his best and worst
https://mic.com/articles/188594/isle-of-dogs-is-wes-anderson-at-his-best-and-worst



"ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』は人の心を捉える作品だが、他の文化に対する配慮が翻訳で失われてしまっている"
アメリカの日刊紙『ロサンゼルス・タイムズ』
motokiji
http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-isle-of-dogs-review-20180321-story.html



"『犬ヶ島』の文化の盗用に関する議論は、我々の映画に対する見方を大きく転換させた"
アメリカの新聞『ワシントン・ポスト』
'Isle of Dogs' cultural appropriation debate marks a major shift in how we watch movies
https://www.washingtonpost.com/news/comic-riffs/wp/2018/03/23/isle-of-dogs-cultural-appropriation-debate-marks-a-major-shift-in-how-we-watch-movies/



"ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』は不快な日本文化の盗用"
アメリカの政治とポップカルチャーを中心としたニュースサイト『The Daily Beast』
Wes Anderson’s ‘Isle of Dogs’ Is Gross Japanese Appropriation
https://www.thedailybeast.com/the-shallow-cultural-tourism-of-wes-andersons-isle-of-dogs



"なぜウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』の舞台は日本なのだろう? 我々もよく分からない"
エンタメ情報サイトの『Mashable.com』
Why is Wes Anderson's 'Isle of Dogs' set in Japan? We're not sure either.
https://mashable.com/2018/03/23/isle-of-dogs-japanese-culture/



"アメリカ映画が今度は犬の映画でアジアの文化を盗用する"
アメリカのリベラル系オンラインメディア『ハフィントン・ポスト』
Now They’re Using A Dog Movie To Appropriate Asian Culture
https://www.huffingtonpost.com/entry/wes-anderson-isle-of-dogs-appropriation_us_5ab5244ee4b0decad0498f20



"ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』は日本への愛にあふれたオマージュか、それとも文化の盗用か"
イギリスの大手一般新聞『ガーディアン』
Wes Anderson's Isle of Dogs​:​ loving homage to Japan ​or ​cultural appropriation?
https://www.theguardian.com/film/2018/mar/26/steve-rose-on-film-isle-of-dogs



"ウェス・アンダーソン監督が『犬ヶ島』での日本の描写と文化の盗用で糾弾される"
欧米における東アジアコミュニティーに関連する情報を伝えるニュースサイト『weareresonate.com』
Wes Anderson slammed for Isle Of Dogs cultural appropriation and depiction of Japan
http://www.weareresonate.com/2018/03/wes-anderson-slammed-isle-dogs-cultural-appropriation-depiction-japan/


イギリスの新聞『インデペンデント紙』より

ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』がその作中の日本の描写で批判に直面する

Wes Anderson's Isle of Dogs faces criticism for its depiction of Japan - 2018/3/25

ウェス・アンダーソン監督といえば2014年の『グランド・ブダペスト・ホテル』で有名だ、この作品は第87回アカデミー賞で最多9部門にノミネートされ、最多4部門で受賞を果たした。

彼はハリウッドでもっとも次回作を期待されている監督のひとりであるが、他の文化を扱うにあたり慎重であるかと問われればYesと答える人は少ない。彼の2007年の作品『ダージリン急行』ではインド文化に対する扱い、その都合のいい使い方で批判に直面した。そしてその彼が手掛けた日本を舞台にした最新作『犬ヶ島』は彼の姿勢が全く変わっていないことを証明するだけだった。

全編にわたりストップモーションを使用したアニメーションで描かれる今作でウェス・アンダーソン監督は彼のイメージする近未来の日本をその背景/舞台に選んだ。メガサキ(メガ崎市)という架空の都市で犬インフルエンザが大流行し、人間への感染を恐れた市長がすべての犬を『Isle of Dogs(犬ヶ島)』に追放、隔離されてしまった愛犬を探すためにその島に乗り込んだ少年とそこに捨てられた犬たちの旅と冒険を描いた物語となっている。

ベルリン映画祭で初公開されるとすぐにこのカルト的な人気を得ている監督の最高傑作であるとの声があちらこちらで聞こえ始めたが、同時にその日本文化の扱いに関して問題があるのではと物議を醸している。それはアジア系アメリカ人の批評家によって火がつけられた。


『犬ヶ島』海外版予告
『犬ヶ島』メイキング映像


特に話題になったのはロサンゼルス・タイムズのジャスティン・チャン(Justin Chang)記者の記事だ。彼はこの映画の革新性を称賛しつつ、映画での言語の扱いに関して疑問を呈した。

映画『犬ヶ島』に出てくるメガサキの住民(日本人)は日本語を話すのだが彼らの会話には字幕は付かない。一方で犬たちは全てアメリカ英語を話す、しかもスカーレット・ヨハンソンやティルダ・スウィントン、エドワード・ノートンなどその多くが白人だ。つまりはこの映画は日本を舞台にしているのだが、その日本人を "何を考えているのか分からない外国人" 扱いしているというのだ。



「日本人のセリフは、とりわけメインキャラクターの少年アタリのセリフの多くは日本語を理解しない人でも文脈や表情に基づいて把握できる簡単なセリフになっている。長いセリフや複雑なやり取りがあった場合は字幕が出るか英語のナレーションが入る。」

「映画の中心となる犬たちはアメリカ英語で話すがその舞台となる日本で暮らす人々は観客には理解できない言語で話す。このズレはメガサキに住む日本人たちへの共感を阻害し、彼らを疎外化してしまっている。」



エンタメ情報サイトの『Mashable.com』のアンジー・ハン氏はジャスティン・チャンの批判に同意しこう付け足した。

「映画『犬ヶ島』はアメリカの悪い癖を踏襲してしまっている、つまりはアジアの文化のエキゾチックな面だけを借り、その文化を築き上げその文化の中で生きてきた人たちを無視しているのだ。この作品の場合、日本の人たちの文化を都合よくその作品の中で使いながら、彼らを "自分たちとは違う人たち" のように描き日本人を "非人間化/記号化" している。」

彼女はまたアンダーソン監督が様々な日本文化のオマージュ(黒澤明や相撲の力士、和太鼓、俳句、歌舞伎など)を積極的に使用しているものの、そこにストーリー上の意味や影響が全くないことに不満を抱いていると書いている。

「それらのオマージュにはストーリー上の必然性が全くない。そもそもなぜ舞台が日本なのか? 日本でなければならない理由、日本を舞台にしたからこそ伝えられるメッセージが監督にはあるのかもしれないが、私にはそれが何であるのか分からない。」

イギリスのガーディアンの記事ではこの他に作中のあるシーンで爆発が起き、きのこ雲が立ち上るのを見て、原爆の被害を受けた日本に対する配慮のなさにあきれ、そして原爆を落とした国の人間が監督しているのにそんなシーンを入れることは無神経すぎると批判している。)



彼女はまた、映画中盤から登場するアメリカ人キャラクターがさらにこの映画の不自然さを強調していると指摘する。

「その段階まで、いわゆるヒーロー側の人間のキャラクターはアタリだけなのだが、そこにアメリカ人留学生のトレーシー登場する。彼女は犬を隔離するメガサキの政策に憤り、アタリが自分の犬を探そうとしているという話を聞きそれを手助けしようとする。」

「彼女はまさに "white savior(白人の救世主)" の典型だ。外国の地に善意ある白人のキャラクターが登場しそこに生きる人々を救うというやつだ。この作品では白人の少女トレーシーが受動的な日本人の民衆を動かし反抗し、物事を正しい方向へ導く役回りになっている。」

「しかもこのトレーシーは他の日本人キャラクターと違い観客にとって最も感情移入しやすいキャラクターになっている、彼女は共感できそうな人間のキャラクターで唯一ほぼ英語を話しているからだ。映画前半ではメインキャラクターのアタリが人間のキャラクターとしてはもっとも共感できる人物となっている、だがトレーシーが現れると観客は彼女に自分を重ねアタリを "他者/他人/共感しにくい人" の役割に追いやる。日本人のアタリはただの記号となり白人のトレーシーがヒーローになるのだ。」

アンジー・ハンやジャスティン・チャンの批判記事を受けてtwitter上ではそれに同意する声が続出した。

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海外の反応

twitter.comのコメント欄より: ソース


Matthew Bright またポリティカル・コレクトネスか、政治的・社会的に公正・公平・中立的かどうかなんてどうでもいいよもう。

George Bear この映画には渡辺謙をはじめとする日本人や日本のアニメーション会社がたくさん参加している。これは本当に日本とアメリカの協力的な取り組みなのに日本人がないがしろにされているってことはないだろ。

Meh 野村訓一っていう日本人俳優が脚本に参加しているしな。

Jamie Broadnax 映画批評家のLeonardo Faiermanは野村が脚本面でどれほど貢献したかは疑問だって言ってるけどね、彼はメインキャラクターの声優としても参加しているし。日本の物語を作りたいから制作陣に日本人がいれば色々と都合がいいと思ってそうしたんだろうと指摘してる。

Connor Darroch 日本人のセリフに字幕がないのは当然だろ。犬は人間が何を言っているのかわからない、そしてこの映画では犬たちは英語を話すので我々は犬たちのことが理解できる、要は我々が犬になるわけだ。

Winnie M Li この映画は犬たちの視点を通して語られる。だから犬たちが人間の言葉が理解できないように、犬に感情移入する観客が日本人の言葉が理解できないというのは演出としてありなんだろう。でもそれはやはり登場する日本人を、野蛮人とは言わないが "我々とは違う人/理解できない人/共感できない他人" 化することにつながっていると思う。

jen yamato ロサンゼルス・タイムズの記事は、ウェス・アンダーソンの オマージュという名のもとに行われる日本の文化を盗用と日本の人々を無視する行為、その無神経っぷりに大きな注意を向ける記事となっている。よく言ってくれた、実際酷いものだよ。

dustin_perry この映画を金曜日に見たよ。とてもいい映画だったけど君やLAタイムズの批判的な見方は正しい。有色人種でない観客や批評家はこの映画の「典型的な」日本像(寿司や相撲、温泉、侍)を見て大喜びするんだろうね。

そして記事にも指摘されていたように、日本人の話す言葉はほぼ字幕が付かず、翻訳される場合も日本人キャラクターが喋っている上から英語のナレーションがかぶさるようになっている、これは確かに彼らを"異質で、共感できない人間"にしているように感じた。

ちなみに私の日本人の妻はこの映画自体どうでもいいと思ったみたい。一番下の9歳の娘はとても気に入っていた、15歳の長男はベイマックスほど良くはないって言ってたよ。

Karen Peterson 映画はとても楽しめたけど、もし日本でなく自分たちの文化がこの映画のように扱われたらどう思うだろうかとずっと考えていた。

davejones 日本人だってアニメで他の国の文化を都合よく使ってるじゃん。

Mahou Shoujo NRA Member Aqua じゃあなぜ日本の人々はこの映画を愛しているんだ?

Im Acat この映画を"文化の盗用"だと批判している連中や批評家は実際に日本人にこの映画を見てどう思ったのかを聞いたことがあるのか? 私はそうは思わない。 そうでなければ、この映画を見た日本人はそれを愛し、この映画に全く問題を感じていないということを知ったはずだ。

パソコンのモニターを通して得た情報ですべてを判断しないでくれ、なぜならそれは常に間違っているからだ。

(※『犬ヶ島』の日本公開は2018年5月25日(金)です。)

Guy Scafidi なんでこう繊細なお人が多いのかね、これは映画で架空の都市が舞台で犬が喋る物語だぞ。文化の盗用だなんだって話はもう聞きたくないよ。

hodgster 文化の盗用?
私は気にしないね。

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