アメリカ合衆国ワシントンD.C.の日刊紙『ワシントン・ポスト』より

彼の日本人の生みの母は実の父親の名前が書かれた紙切れを渡した。彼は本当の父親を捜すつもりはなかった。

His Japanese birth mother gave him a slip of paper with his father's name. He didn't intend to search for him. - May 15, 2018

2009年にブルース・ハリウッド氏が彼の母親であるオオウチ・ノブエさんに会いに行き、静岡駅で別れを告げた時の写真。それは彼が彼女を見る最後の時だった。ノブエさんはその翌月に心臓発作で亡くなった。 - photo via roanoke.com - COURTESY BRUCE HOLLYWOOD

元アメリカ空軍大佐のブルース・ハリウッド氏は探索を終えた。彼は赤子の頃にアメリカ人夫婦に養子に出されて以降会うことのなかった日本人の生みの母親を見つけ出し彼女に感謝の気持ちを伝えた。彼は父親を探す必要性を感じてはいなかった、同じくアメリカ空軍で働いていた実の父親を。

ハリウッド氏は彼の母親であるオオウチ・ノブエさんと再開できたこと、新しい関係が生まれたこと、そして母の自分への献身に感謝した。



ノブエさんはハリウッド氏が自分の元にいつか帰ってきてくれることを信じていた、アメリカ人夫婦に養子に出した後も彼の名前を自分が経営するレストランにつけて、たとえそれが何十年かかろうともいつかはと信じていた。

彼女は正しかった。ハリウッド氏が46歳になった2006年に2人は再会した。そしてその際に彼女はハリウッド氏の実の父親の話を彼に話したという。



ハリウッド氏の父親が1959年に日本に駐留していたときに2人は出会ったとノブエさんは言った。彼らは恋に落ち、結婚する予定だった。だが彼は米国に戻るように命じられる、その時ハリウッド氏を妊娠していたことを2人とも知らなかった。

彼は帰国したらすぐにノブエさんに電話すると約束したがそうしなかった。彼が帰国してから数ヶ月後にようやく連絡が来る、だがノブエさんはもう彼を信頼することができないと考えて彼からの電話に出ることを拒否した。彼は自分が父親になっていたことを知ることはなかった。2人はそれきりの関係になったという。

だがノブエさんは息子と再会したときにハリウッド氏に一枚の紙きれを渡した、もし息子が自分の父親のことを探したいと考えた時に備えて彼の名前を伝えたのだ。ノブエさんは丁寧に、大文字ではっきりと "LOIS BAZAL" とそこに書いていた。

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日本人の生みの母親を探し出ししばらく日本に滞在したハリウッド氏がワシントンに戻った時、彼は自分の存在を知らない実の父親に連絡するつもりはなかった、だが軍事記録を確認する程度には興味を持っていた。

だが母親から伝えられた名前を照会してみたものの該当者は発見できなかった。"Lois" ではなく "Louis" も試みたが結果は同じだった。ハリウッド氏は奇妙に思ったが特にそれ以上調べようとはしなかった、それよりも自分の実の母親と時間に彼は集中したのだった。

彼の育ての両親、生前いつも自分の生みの母親を見つけるように促していた二人はすでに亡くなっていたが、ハリウッド氏はついに会いに行けたことを亡くなった育ての両親も喜んでくれているだろうと考えていた。

ハリウッド氏とノブエさんが再開した年から2009年に彼女が心臓発作で亡くなるまでの3年間、2人はお互いに日本とアメリカを行き来した。



それから8年後、57歳になっていたハリウッド氏はバージニア州の町ヴィーナに住んでいた、母親を見つけ出したこと、2人で共に過ごした日々、その思い出を大切にしながら、友人たちとその話を共有しながら。

彼は特にノブエさんが自分の視界から彼がいなくなることを嫌った話を伝えるのがとても好きだった。日課のランニングに出かけるとノブエさんはその後を自転車に乗って追いかけた。2人はしばしば止まり、海の側に立つ壁に横に並んで座り、何を話すでもなくただ海を見ていたという。

ハリウッド氏は自分の生みの母親を見つけた、そしてそれによって自分の日系アメリカ人としてのアイデンティティも発見した。それ以上何が必要だというのか、彼はそう思っていたという。
ところが数年前、ハリウッド氏は自分のもう一つの側面である白人としての自分にもふと興味持ち自分のDNAをAncestry.comのキットで試してみたという。

アンセストリー・ドットコム
自分の先祖をたどって何世代もさかのぼり自分のルーツ探し&知らない親戚探しが簡単にできるインターネット・サービス。簡易DNA検査キットを使い自分のDNAを調べると、アンセストリー・ドットコムが保有するアメリカの国勢調査や移民の入国記録、兵役記録などのデータベースから関係のある情報を教えてくれる。アメリカでは日本のような戸籍制度がないため自分の先祖を簡単には確定できずこの手のサイトがよく使われる。


結果自体は特に驚くものではなかった、彼の先祖の半分は東アジアから、残りはアイルランド、スペイン、西ヨーロッパ諸国からのものだった。

だが彼が調査結果をクリックし続けていると、『あなたのいとこである可能性が100%の人物が見つかりました』と出てきたのだ。その名字は "Bazar" 、ハリウッド氏の母親が彼に伝えた名字と1文字違ったものだった。



彼はそこでハッと気づく、日本人は "R" と "L" をよく混同する。そのため彼の日本人の母親は "Bazar(バザール)" ではなく "Bazal(バザル)" と書いていたのだ。

彼はさっそくそのいとこに電子メールを送り自分が誰なのか、なぜ彼がそのいとこに辿り着いたのかを説明した。そのいとこの妻が応答する、彼は日本に駐留したことがある親戚がいたかどうかを尋ねた。彼女はいたと答えた、叔父がそうだというのだ。

「私は、"ええ、それが私の父だと思います" と答えました。」

ハリウッド氏はそう振り返る。

彼女はその叔父はすでに亡くなったと言った。だがこう付け加えた、

でも彼には息子がいます。
ハリウッド氏はその番号を聞くとすぐに電話した。電話にはでなかった、だが事情があまりにも複雑なためメッセージを残すもできなかった。だがそれから数分後、ルイス・バザール・ジュニアから電話がかかってきた。

「あなたの父親はルイス・バザールですか?」

ハリウッドは彼に尋ねた。

「ええ、父はルイス・バザール、私はルイス・ジュニアです。」

ハリウッド氏はこう続けた。

「あなたに伝えるべき話があります、信じられない話でしょうが。」

だがその後、話をしていると全く予想外の事実を発見する。ルイス・ジュニアは彼よりも年上だった、彼はハリウッド氏の父親が日本に駐留する前に生まれていたのだ

ルイス・バザール(右)、日本から帰国後の1961年前後 - photo via roanoke.com - COURTESY LOUIS BAZAR JR.

しばらくの間ハリウッド氏は、彼の日本人の母親であるノブエさんが騙されていたかもしれないことを恐れた、彼の父親が妻子を持ちながらノブエさんに近づいていたことを。

だがフロリダ州に住むルイス・ジュニア氏、63歳の彼は自分の母親は自分を出産した時に亡くなったと語った。ハリウッド氏はルイス氏を気の毒に思うと同時に心から安堵した、彼の父親のノブエさんへのプロポーズは誠実なものだったのだ。

ルイス・ジュニア氏は彼の父親が日本に駐留していた時5歳だったという。父が離れている間は彼の叔母が世話をしていたとのことだ。

だがしかし、なぜハリウッド氏の父親は日本を離れた後にノブエさんに電話するまでかなり長い時間を要したのだろう? そのせいで彼の父は母からの信用を失ったのだ。
ハリウッド氏は次のように述べる。

「私はいくつか理由があったのだと確信しています。まずサウスカロライナ州に住む自分の家族に、新たに日本人の女性を迎え入れるにあたり様々な準備をしていたはずです。それに幼い息子との久々の再開だったわけですから、父子としての関係を温める必要があったはずです。」

2人の父親であるルイス・バザール氏はノブエさんと同じように結婚することはなかったという。

一連の話を聞いたルイス・ジュニア氏は彼の父親は恋を断念したのだろうと述べた、最初の妻は出産中に亡くなり、次に結婚したいと考えた女性からは拒絶されてしまったのだから。

ルイス・バザール氏は辛い子供時代を過ごしたという。彼は幼い頃に両親を亡くし、彼を育てるのを助けてくれた姉は家族が経営する店で働いているさなかに殺されたという。

「自分が大切にしたいと思った女性を父はことごとく失ってしまった、それが父を悩ませたのだと思います。だから父はその後女性と近しい関係になることはなかった。家に誰かを連れてくることもありませんでした。」



2005年にルイス・バザール氏はホスピス(終末期ケアを行う施設)で、その死期が迫っていた時に彼は息子にアルバムを渡したという。そこには彼がそれまでに見せてもらっていなかった写真が含まれていた。

そこには若い日本人女性の写真が何枚も入ったページがあったという。だが彼は息子にそれについて話そうとはしなかった。

- photo via roanoke.com - COURTESY LOUIS BAZAR JR.

だがハリウッド氏から電話で話を聞いたことで突然、ルイス・ジュニア氏は全てを理解した。パズルのピースが組み合わさったのだ。

ハリウッド氏からの電話は彼にとってショックなものだっただろう。

だがハリウッド氏が彼に

「弟はいりませんか?」

と尋ねるとルイス・ジュニア氏は躊躇せずこう答えた。

「ああ、兄弟が欲しいといつも思っていたんだ。」


ルイス・ジュニア氏(左)とブルース・ハリウッド氏(右)の兄弟 - photo via roanoke.com - COURTESY LOUIS BAZAR JR.

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