1857年に創刊された米国でも歴史ある総合誌『The Atlantic』より

なぜ結婚後に妻の姓に変えようとする男性は増えないのか?

Why Don’t More Men Take Their Wives’ Last Names? - JUL 25, 2018

- アメリカの成人の大多数は、結婚する女性はそれまでの姓を名乗り続けることを諦めるべきと考えている -



結婚に至るまでの過程で多くのカップル、特により進歩的な傾向にあるカップルはこの問題に遭遇する、"last name(姓)をどうするか?" という問題だ。

一部の人々は妥協案で衝突を回避しようとする。例えば夫の姓が "Smith(スミス)" で妻の姓が "Taylor (テイラー)" だった場合、それらを合体させて新たに "Smith-Taylors" または "Taylor-Smiths" 、あるいはより創造性のあるカップルは "Smilors" にするなどしている。

だが必ずしもそんな "公平" な選択が成されるわけではない。事実未だに "女性は男性の姓を名乗るべき" という考えは、少なくともストレートの人間の間では、根強く残っている。



2011年にカリフォルニア・マーセッド大学のLaura Hamilton氏らが行った調査 によると成人の72%が『女性が結婚した場合旧姓をあきらめるべきだ』と回答し、そう回答した人の半分は『選択以前に法律でそう定めるべき』と考えていた。
(ちなみに一部の州では1970年代半ばまで、既婚女性は旧姓で投票することが法的に禁止されていた。)

その逆に "結婚後に妻の姓を名乗る男性" は現在でも信じられないほど少ないのが現実だ。

2018年に公表された オレゴン州ポートランドにあるポートランド州立大学が877人の異性愛者の既婚男性を対象に行った調査 によれば、結婚後に妻の姓を名乗る(※)アメリカ人男性の数は僅か27人、3%未満しか存在しなかった
(このThe Atlanticの記事には書かれていませんがソースのphys.orgにはその内訳が書かれていたので追記)

877人の既婚男性のうち27人(3%)が妻の姓を "一部または全て" 受け入れており、27人のうち25人が妻の姓を名乗り、2人がハイフンで夫婦の姓を繋げた。

残りの97%の既婚男性は姓を変えなかったが、87%は妻が旧姓を捨てたと答え、4%は自分は姓を変えない一方で妻だけは夫婦の姓をハイフンで繋げたと答え、6%は夫婦共に姓を変更しなかった(夫婦別姓を選んだ)と答えた。なお新たに姓を初めから作ったという回答はなかった。

ソース:https://phys.org/news/2018-05-marriage-game-kind-guy-wife.html



ちなみに日本の場合、婚姻後に妻の姓にした夫婦の割合は4%。


厚生労働省:平成28年度 人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」の概況より
ワシントンに住む管理補佐職をしている23歳のベッカ・ラム(Becca Lamb)は、彼女の婚約者が結婚したら彼女の姓を名乗りたいと申し出た時、最初は "No" と答えたと語る。

「私はそれにショックを受けました。私はいつも結婚したら夫の姓を名乗ることを考えていました。私は "普通" から外れることを何もしたくなかったので。」



しかし結婚の際に男性が妻の姓を名乗ることは必ずしも西洋文化において異常なことではなかった。

中世のイングランドでは裕福あるいは地位の高い家族の女性と結婚した男性は時に妻の姓を名乗ることがあったと、結婚と家族の歴史について研究するワシントン州のザ・エバーグリーン州立大学のステファニー・コインツ教授は語る。

同氏によれば12世紀から15世紀にかけて、イングランドやフランスなどの "高度に階層的な社会" において "階級はジェンダーよりも重視された" という。この時代のイングランドの上流家庭では地位を持つ姓が優先されることは一般的だったとのことだ。

女性が裕福であったり高い地位を持っていた場合、特にその家族が城などを所有していた場合、男性はその家族の一員になることで得られる恩恵を夢見た。

「男性は王女様と結婚することを夢見ていたのです、王子様と結婚することを夢見るのは女性だけではなかったという事ですね。」



現代のアメリカにおいても男性にとって結婚時に自分の姓を捨てることには心理的な障害が付きまとっていると、姓を変更することについての感じ方を研究している インディアナ州の大学インディアナ・ユニバーシティ・ブルーミントンの教授であるブライアン・パウエル(Brian Powell)氏は語る、彼らはそれが "男としての価値を下げる" と考えているのだ。そして、その考えはおそらく正しいと思われる。

同大学の博士課程の学生であるクリスティン・ケリー(Kristin Kelley) は現在、結婚後の姓についてそれぞれ異なった選択をした仮想の夫婦の情報を提示しそれに対し人々がどの様な反応を見せるかを研究している。

彼女によれば女性が結婚後も自分の姓を名乗り続けた場合、あるいはハイフンで夫婦の姓を繋げた場合、人々がその夫に対し "支配的でない" あるいは "家庭において弱い立場にある" と考える傾向は強くなり、また "非伝統的な姓の選択" をした男性の社会的地位は下がったという。

パウエル教授によれば、結婚時に自分の姓を変えることで男性が経験する "社会的な烙印" はさらに大きくなる可能性が高いという。
特に結婚時に妻の姓を名乗る男性の割合が極めて少ないため非伝統的な姓の選択をする夫婦の存在は際立ってしまう。

先に紹介したベッカ・ラムは婚約者が自分の姓を名乗ることを申し出たことに対し、もしそれが "気軽" に決めたことだったならば決して受け入れることはなかったと語った。それは夫婦の今後に関わる極めて重大な決断であり、また男性が妻の姓を受け入れる/夫婦の姓をハイフンで繋げる/夫婦の姓を合体させ新たな姓を作るといった選択はジェンダーにまつわる慣習を変えることに役立つものの、そこに政治的な意味を持たせてしまう可能性がある。

「私は自分たちの結婚が、政治的な主張と捉えられることを望みません。」

彼女も "女性は男性の姓を名乗るべき" というある種伝統的な考えには違和感は覚えているものの、夫が自分の姓を名乗ることでジェンダーの問題に関し強い主張を持っていると周囲から思われることを懸念していた。



一方でその婚約者であるAveryは、男性が結婚する際に妻の姓を名乗ろうとしないのは他にそうしている男性がいないからだと語る。

「私はベッカの姓を名乗ることを私たちの周囲の人々に伝えたのですが中には "そんなことが可能なのか?" と言ってきた人もいました。」

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海外の反応

facebook.comのコメント欄より: ソース


Tom Johnson 私たちが36年前に結婚したとき、妻はすでにキャリアとその名を周囲から認められていた、私も同様だ。自分たちの姓をそのまま残すのは当然の選択だった、ハイフンでつなぐようなこともしていない。

未だに『女性が結婚した場合旧姓をあきらめるべきだ』などといった思想をもつ化石のような連中が72%もいることに戸惑いを隠せない。今は21世紀だぞ?

EJ Greene 名前ってのはブランドだからね、特に論文を書くような研究者なんかにとっては。

Suzanne Peake この記事で書かれた数字にショックを受けてる。結婚後に姓を変えるなんて考えられないのにこんなにもたくさんに人がそうすべきと思っているだなんて...

Heaven Silva これほど大勢の人間が結婚したら女性は夫の姓を名乗ることを "法律で義務付けろ" と考えていることに眩暈がする...

Kristina Schinder フェミニズムとか関係なく、近年の離婚率を考えたら結婚したら姓を変えるなんて慣習はどう考えても時代遅れでしょうに。

Cathi Iuliano 私は結婚後に自分の姓を変えたけど激しく後悔してる、本当に馬鹿げた慣習だ。そりゃもちろん元の姓に戻すことは可能さ、でもそれには山のような手続きが必要になる。ただでさえ姓を変えたことで余計な手続きが増えて嫌になっているのに戻したらさらにそれが増えるってんだから。

Monica Szabo-Nyeste "成人の72%が『女性が結婚した場合旧姓をあきらめるべきだ』と回答し"
もうちょっと正確な表現になるよう修正してあげよう。

"米国の72%の成人は性差別主義者であり、 その偏見を徹底させるために全体主義的な思想を用いることが賢明だと多くの者は信じている"

Susanne Chang その考えは短絡的過ぎる。私の夫は結婚する際に彼の姓に変えて欲しいと言ってきたが夫は性差別主義なんてものから程遠い人間だ。姓の選択はより個人的なことだ。それは仕事、キャリアを理由にすることもあるし、子供たちにどちらの姓を受け継いで欲しいかといったことも理由となる。

Pam Epley 夫が妻に自分の姓を名乗ってほしいと思うだけで性差別主義者扱いするなんて乱暴すぎやしないかね。

Melissa Muirhead いいや、上の指摘は正しい。妻が自分の姓を名乗ることを期待している夫は、自分の姓と性を妻のそれよりも重視する家父長制的な思想に完全に染まっている。

それは人工中絶と同様の話だ、その決定は個人の選択が何よりも重視されなければならない。身体や名を規制する権利など誰も持ってはならない。

Carrie Martin 結婚する際に自分の姓に変えて欲しいと言ってきた時点でその男は男子家長制社会の一員であることを認めたようなものであり、つまりは性差別主義者である。

Anne Marie 私の夫も彼の姓に変えてくれと言ってきた。私がなぜそうしなければならないのと尋ねると、彼はそうすることが家族が一つになる、その象徴であるとずっと考えてきたと、ハイフンで姓を繋げるのは嫌だからと言ってきた。だから私はどちらの姓を選ぶべきか話し合うことを提案した。実際は彼の姓になること自体は気にしていなかった、ただそのことに関してオープンな考えでいてくれればそれでよかった。

Kevin Voight なぜ姓を変えなければならない理由なんてどこにある? 私は私のものを、私の妻は彼女のものをすでに持っているのに。

April Lynn 一部の男は妻を所有権をそうやって主張したいのさ。

Beth Kennedy 私の超クールな旦那様は私が姓を変えなかったことを全く問題にしていない。私は彼の所有物ではないし、その逆もまた然り、互いを尊重するのは関係を良好に保つ上で大事だ。

Marjorie McAloon 夫婦別姓でもいいんじゃないの?
男の子が生まれたら夫の姓、女の子が生まれたら妻の姓を与えるとかでいいじゃん。

Russell Hauptman 私はかなり進歩的な人間と自負しているけど、婚姻の伝統に関してだけはあまり変えるべきではないと思ってる、少なくとも子供を持とうと思っている人間に対しては。

子供が生きやすい選択をすべきだ。

Jessica Paiva family nameを持つという事、統一することは家族にアイデンティティと連帯を与えると思う。それは子供を育てるときにとても重要なことだ。実際そうした過程の方が子どもがうつ病になる可能性は低く、自信や自尊心をより持ちやすくなるという研究結果もあるしね。

Russell Hauptman 家族が同じ姓を持つことがアイデンティティという感覚を与えるってのは同意。子供を育てることを考えるとやっぱりその方がいいと思う。

Leonard Smith 43年前に結婚したが妻は彼女の姓を残した、私たちはフェミニスト主義のためにこれをした。妻はNOW(全米女性連盟)の会員であり、また彼女は一人娘だったこともあり家族の姓を残すことは大きな意味があった。

私たちの子供たちにはそれぞれの姓をハイフンで繋げた姓を与えた。その私の娘が結婚したとき、彼女は私の姓を外し夫の姓を付け加えた。

私は自分が正しいと思うことをした、批判などに耳を貸す必要はない、己が信念に準ずるべきだ。

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“Wedding Saida & Amel” by Keno Photography - Kenan Šabanović is licensed under CC BY 2.0