アメリカのグルメ情報サイト『EATER』より

東京のトップレベルのレストランを訪れることはこれまで以上に難しくなってきている

Getting Into Tokyo’s Top Restaurants Is Harder Than Ever - Aug 2, 2018

- 厳格な会員限定/一見お断りのポリシー、限られた座席、および常連を最優先する姿勢から一部のレストランは外国人が予約を入れることをほぼ不可能にしつつある -



「ご要望に応えることができないことを心からお詫び申し上げます。」

寿司『さわ田』への予約を頼んだコンシェルジュは申し訳なさそうにそう答えた。  

そこはレストランを格付けするミシュランガイドの2009年東京版で2つ星を獲得した澤田幸治氏が店主を務める銀座の小さな高級寿司店であり、私は4ヵ月以上前ならば予約が取れるだろうと踏んでいた、7席しかなく予約が難しいとされる店であってもそれだけ前ならば十分だろうと。

だが寿司『さわ田』はコンシェルジュからの予約を受け付けなくなったという、たとえそれが東京のトップレベルのホテルからのものであってもだ。

さらに別の名店、赤坂にある『鮨 さいとう』への予約を依頼するとザ・ペニンシュラ東京のコンシェルジュはこう説明した、もしその店に行ったことがない場合、店主らと個人的に知り合いであるか、以前にそこへ行ったことがある人間のゲストとして呼ばれるかしない限り予約することはできない、と。

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かつて日本を訪れる外国人観光客はペニンシュラのような超一流の5つ星のホテルに泊まりさえすれば確実にそのようなレストランに予約を入れることができた。それは公然と知られる "抜け道" であり、旅行ガイドや旅慣れた人たちはアドバイスとして頻繁に言及していた。だがそれは観光客よりも地元の人間を優先するレストランではもう通用しなくなっていた。

近年日本を訪れる外国人観光客の数は急増しており2017年には過去最高となる約3千万の外国人が日本を訪れた、そしてその多くが東京に惹きつけられている、世界最高峰のレストランシーンを経験するために。

その動きに対し一部の東京のレストランは常連客を優先するために密かに予約リストから外国人観光客を締め出すか、あるいは人に気付かれない方法で彼らを避けるようになってきた。



ツアーやレストランを予約する訪日外国人向けの体験予約サイトVoyaginの創業者兼CEOである高橋理志氏によると、これらのレストランが予約を制限する動きを見せているのは日本のシェフらが自らに厳しい基準を設けていることに所以するという。

「日本のハイエンドなレストランやそのシェフは顧客に対し有意義で、血の通った心の通じ合いのある、真の食体験を提供したいと考えています。これらのレストランで座席が限られ予約を必須とするのはそのためです。」



神谷町にあるフレンチの高級ダイニングレストラン『SUGALABO inc』でシェフを務める須賀洋介氏(※ "新料理の鉄人" でフレンチのアイアンシェフとして出演)は顧客とのコミュニケーションは個々人に合わせた高いレベルのサービスを維持するうえで何よりも重要だと語る。

同レストランでは顧客の食事制限の内容や好みまで反映した料理が提供されており、それこそが常連客を優先する理由であり、また20席しかないこの店に初めて訪れる顧客がすでに来店歴のある人物からの紹介を必要とする理由だ。

「予約の度に電話でその様な対応をすることは難しく、またそのための電話オペレーターとしてもう一人余分に従業員を雇うことは望ましくありません。予約の制限は懇意にしていただいているお客様を繋ぎとめることはもちろん、排他性を保つうえでも、また予約システムをより潤滑にするうえでも役立っています。」
一見お断りや会員限定のポリシーは東京の新世代のシェフ、特に寿司や焼鳥、焼き肉などの伝統的な料理を提供するシェフの間でよくみられる。

「一般的に言って、日本のシェフは自分のレストランに何度も何度も足繁く訪れてくれる地元の顧客に対してサービスを提供することにより関心を持っています。その様な関係性は彼らにとって重要であり、それは時間の経過とともに培われていきます。」

『Tokyo New Wave: 31 Chefs Defining Japan’s Next Generation(東京ニューウェイヴ:日本の次世代を定義するシェフ31人)』 の作者であるアンドレア・ファザリ氏(Andrea Fazzar)はそう述べる。

顧客が来店を繰り返すたびにレストランの敷居は下がり、そこでの経験はより親密なものになるのだ。

「またシェフたちは顧客に対して日本社会の規範に沿った行動、例えば予約時間の厳守や突然の予約のキャンセルの回避、礼儀をわきまえた態度などを期待できるわけです。」

「観光客はより予測不能であり、一部の日本人シェフはそれに不快感を感じています。」



一方でFazzariによれば海外に住んだ経験のあるシェフは特に外国人観光客に対しオープンだという、『ミシュラン東京2014』で1つ星を獲得した銀座の寿司店『はっこく』の店主、佐藤博行氏はその1人であり同店は分かり易いオンライン予約システムで彼らを歓迎している。

「佐藤氏は寿司職人ですが旅行が大好きで伝統主義者とは程遠い存在です、そのため海外からの観光客も多く訪れています。また他の多くの寿司店と違い店が広く客席が多いのも同店の特徴です。」

 「ですがレストランが予約というものをどう扱うべきかについてのルールは存在しません。結局は各シェフの考えと、そのレストランがどうあるべきかという彼らの個人的な選択に帰結します。」





『世界のベストレストラン50』で2016年に "注目のレストラン賞" を獲得した神保町の創作日本料理店『傳(でん)』の店主である長谷川在佑氏は常連客だけでなく初めて訪れようとしている人たちからも予約を受け付けている。

 「私たちの店はいわゆる "一見お断り" ではありません。とは言うものの、基本的に限られた時間帯に電話でしか予約を受け付けないので日本のお客様の方が予約はずっと簡単でしょうが。」

同店では海外から来る観光客のために特に彼らを対象としたランチサービスを定期的に提供している。それは他のレストランの一部でも行われている実践だが、一部の人間はそれを "外国人の隔離" と見なしているようだ。



東京に広がる "一見お断り" のムーブメントに乗っかるレストランの情報を含む、日本の文化と言語学習を扱うサイト『Tofugu』の設立者であるKoichi氏は以下のように語る。

インターネットやソーシャルメディア、私たちのTofuguを含めてですが、それらのおかげでより多くの人々が隠れた名店、会員だけが行くことができるようなレストランを訪れようとしているように感じます。

彼によればレストランのオーナーの中にはただ友人などの身内だけで楽しみたい、同じ関心を共有している人と出会いたい(渋谷にある任天堂ファンが集まる完全会員制のレストラン『84』など)という理由で店を経営している者もいるそうだ。

「他にも単に多過ぎる客に対処したくないと思うオーナーもいるはずです。日本のレストランはしばしば本当に小さかったりしますから。」

彼はそう説明し、また近年広まる一部の人間だけを受け入れるレストランの姿勢は、"外国人お断り" とは何の関係もないと付け加えた。

外国人に対する差別というより非会員に対する差別といった感じです。
だがこれらの一部のレストランが取る方針について何も知らない外国人観光客は非難の声を上げている。イリノイ州に住むとあるアメリカ人は予約ポリシーの厳しい蕎麦屋に予約しようとするも断られたことから "外国人に対する非道徳的姿勢、日本文化の暗い側面を発見した" と主張している。

彼はホテル等の旅行に関する口コミ・価格比較を中心とする世界最大の旅行サイト『トリップアドバイザー』にその不満を書き連ねている。

「これは "無礼" な外国人から日本人の客を守るためにしていることなのか?
それとも都合の悪いレビューや写真が口コミサイトに載ることを恐れてのことか?
それとももっと悪意のある動機からそうしたのか?」



『ジャパンタイムズ』や我々『Eater』に寄稿するレストラン批評家のRobbie Swinnerton氏は、東京で最も人気のあるレストランの一部で外国人観光客が予約することをほぼ不可能にしているこれらの方針の主な動機に "外国人に対する差別" は含まれていないと述べている。

「初めて予約しようとする場合、外国人に限らず日本人にも同じような差別が適用されますから。」

「ただ日本語を話さない人の場合、日本のレストラン事情を理解、納得することができない人が多く出てくるだろうというもっともな懸念はあります。」



人数が限られることになっても最高のサービスを提供しようとする小さなレストランが多数存在し、高級店であろうとも足しげく通う舌の肥えたグルメがすでに多数存在する都市に、外国からの観光客が殺到しさらにその数は年々増え続けているというのだから、東京で予約ポリシーが厳しくなっているのは不思議なことではないと言えるだろう。

「結局のところ、それが日本なのです。物事は彼らのやり方で行われている、それは必ずしも外国人にとって利益になるわけありません。それはこの国を訪れる人間にとって不満と感じられることでしょう、ですが同時それはこの国の魅力でもあります。」

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