米国の代表的な総合月刊雑誌/出版社のアトランティック・マンスリー傘下の世界の都市にまつわるストーリーを紹介するサイト『CityLab』より

日本でまだ繁栄している破産したアメリカのブランド

The Bankrupt American Brands Still Thriving in Japan - DECEMBER 10, 2019



東京のショッピングストリートを訪れる北米の人間はそれを見て驚いているのではなかろうか、なじみ深い、しかし北米では "とっくに死んだはず" のアメリカブランドの店が並ぶ光景を見て。

ユニクロ、ローソン、東急ハンズ。日本の都市のメイン通りを歩くとそれら国内チェーンの合間にアメリカ人からするとつい最近死んだ/死にかけのブランド名が目に入ってくる。

玩具量販チェーンの『Toys "R" Us(トイザらス)』、CDショップチェーンの『タワーレコード』、 高級百貨店チェーンの『バーニーズ』、食料品チェーンの『ディーン&デルーカ』。

これらは本国である米国ではすでに倒産したチェーンだ。しかし日本ではどういう訳か生き残っており、さらには繁栄している。

アメリカの観光客にとってはなんとも不思議な光景だが日本の小売業界の専門家によるとそこには様々な理由があるようだ。

アメリカのブランドはライセンス契約によって生き残っている

アジア地域で展開しているアメリカのブランド名を持つチェーンのほとんどはライセンス契約を結んだ独立した組織だ。

そのため本家が米国で倒産したとしても必ずしもその影響を受けるとは限らない、単独の法人として運営されており本家とは財務的に独立した組織となっているからだ。



例えば『Toys 'R' Us Inc.(米トイザラス)』は2017年9月に連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を申請、その債務総額は2017年4月末時点で52億ドルにも及んだため米国事業の買い手が見つからず再建を断念、資産のすべてを売却し得られた資金で債権者に支払えるだけの弁済をし会社を解散させる "清算" を決断した。

かつて一世を風靡したカテゴリーキラーは翌年、米国内の800近くもの大型店を全て閉鎖し「アメリカの小売業の黙示録/終末」を象徴する存在となった。
カテゴリーキラー:
商品分野(カテゴリー)を絞って豊富な品揃えと徹底的なコスト削減で低価格を売りにする小売店業態。カテゴリーキラーが進出すると商圏内の総合スーパーや百貨店が撤退に追い込まれることからこう呼ばれた。


なお元社員らが2019年1月に新会社トゥルー・キッズを設立しブランドを引き継いで復活させたが現在米国に存在するトイザらスは2店舗のみとなっている。



ところが太平洋を挟んだ反対側ではトイザらスは健在だった。

米トイザラスとは別個の法人として運営されていたトイザらス・アジア・リミテッドは2018年にアメリカの親会社との関係を解消、米トイザラスの清算の影響を受けず引き続きアジア地域での事業拡大に専念することができた、「トイザらス」のブランドや店舗名も変わらないままだ。

現在そうであるように、このブランドは長い間日本の玩具業界を支配してきた。

1991年に日本の小売市場に参入したトイザらスは日本の複雑な流通と規制の壁を突破した米国ブランドの成功例の1つとして知られている。

今ではライバルはほとんどおらず知名度も高く業界で最大の影響力を持つに至っている。

「彼らが日本で生き残った理由は日本市場に非常に良く適応したからであり、このセクターでの競争が非常に低かったからだ」

ニュージーランドのワイコト大学でマーケティングの上級講師を務める小売の専門家で日本の消費者行動の専門家であるロイ・ラーケはこう述べている。

アメリカのブランドは日本ではまだブランド力を持っている

日本ではアメリカの有名ブランドが今もありがたがられている。

世界の高級食材やデリカテッセンを提供するニューヨーク発の高級食品小売チェーン『Dean&DeLuca(ディーン&デルーカ)』は本国アメリカにおいては販売低迷と競争激化の中で経営不振が続き現在は全店舗が閉鎖中だ。

しかし日本でディーン&デルーカ事業を展開している株式会社ウェルカムは日本国内における営業権および商標権らのすべてにおけるライセンスを事実上100%取得しており国内に50ある店舗はいずれも好調だ。

同チェーンが人気になっているのはもちろん米国風高級デリカテッセンが理由だが、日本の消費者がディーン&デルカに抱く "マンハッタン流ライフスタイル" のイメージもその理由かもしれない。

 「日本に存在するアメリカの小売店、アメリカの文化とセンスを前面に出した小売店は日本で独自の名声を得ているが、日本人から見たそれらのブランドは米国人から見たものとは異なっている」

京都の立命館大学で経済学教授を務めるデイビッド・フラットはこう述べている。



米国の高級百貨店チェーン『バーニーズ』も2019年8月6日に連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を申請したが日本では伊勢丹がマスターライセンス(ブランドの包括的・独占的使用権)を取得しており本家と違い好調を保っている。

東京を拠点とするジャーナリストであり作家でもあるW.デイビッド・マルクスは、バーニーズとディーン&デルカは "西洋の贅沢" という概念を売りにすることで日本で成長してきたと指摘する。

「彼らは日本の消費者に本物のアメリカを体験させるのではなく、アメリカのファンタジーを体験させることで生き続けている」

Density, density, density(密度がものをいう)

カリフォルニアを拠点とするチェーンのタワーレコードは何十年にもわたって音楽愛好家にとっての究極の専門店であり続け1990年代半ばには世界中で200店舗を展開していた。

しかし2000年代に入ると総合スーパーや家電量販店の安売り攻勢やファイル共有サービスの急速な普及などにより業績が急激に悪化、消費者の音楽へのアクセス方法が変化したことで債務を増加させ破産を余儀なくされた。そして2006年に米国内のすべての店舗が閉鎖されるに至った。

しかし日本ではタワーレコードは東京と大阪で今でも大きな存在感を誇っている。

日本事業は2002年に売却され現在はタワーレコード株式会社が運営している。アメリカ本国の法人との資本関係は消滅したがおなじみの黄色と赤の看板と複数階のレイアウトは健在だ。

そこを訪れるアメリカ人は音楽の海賊行為が始まる前の時代のフラッシュバックに襲われることだろう。



タワーレコードが今も日本で存続しているのにはいくつかの要因がある。

まず日本ではCDやアナログレコードに対する需要が今でも高い、それらを入手することがアーティストのファンであることの証であると考えている人間も未だに多い。

2016年にQuartz.comが報じたところによると日本の音楽の売り上げの80%近くが物理メディアだったという。

「デジタルデータではなく実物を求める声がある、それはつまりその実物を販売する場所が必要とされているということであり、それが実際の小売店舗が長持ちしている理由の一部だ」とデイビッド・マルクスは述べる。



もちろん日本でもAmazonなどのECサイトの台頭により実店舗の売上は年々減少傾向にある。ほぼすべての分野でそうであり特に書籍やCDなど購入する前に直接目で見て吟味する必要のないアイテムはその傾向が顕著だ。

しかし実店舗を取り巻く環境は日本と米国では大きく違っているとデイビッド・マルクスとロイ・ラーケは指摘する。

その差を生んでいるのは日本の非常に高い人口密度だ。



日本の人口密度は米国の約10倍でありこれは都市に拠点を持つ小売業者にとって大きな違いとなっている。

たとえば日本の場合は首都圏だけで4000万人もの人間が住んでおりしかもそのほとんどは都市中心部まで約1時間で到達できるとマルクスは指摘する。

世界で最もにぎやかな歩行者専用交差点を誇りタワーレコードの旗艦店が存在する渋谷を始めとする東京のショッピング・ホットスポットは徒歩で行き来する人々で溢れており、このeコマースの時代に新旧の小売業者が生き残ることができているのはその密度と規模の大きさが大きく影響している、人がたくさんいる場所で商売をすれば効率が良いのは当然だ。

またこれらの場所では小売業者は "消費者の日常の一部" になることができると不動産サービス会社CBRE Japanのホソダ・イワオは述べている。

対照的に、最近米国で姿を消した大規模チェーンの多くは人口の少ない田舎や郊外に広大な売り場面積を持つ大規模小売店舗を展開していた。

この業態は土地代を安く抑えることができる反面、オンラインショッピングの普及に伴う消費スタイルの変化に対して極めて脆弱であった。



日本では高齢化と少子化が進んでおり賃金の上昇も停滞し続けている。オンラインショッピングサービスの利用者数は今後高まる一方だろう。

だがそれでも人口が密集し、十分な規模を持ち、人の移動が多いことで、実店舗は毎日通り過ぎる買い物客の数の圧倒的な多さのおかげで生き残ることができている。

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海外の反応

twitter, facebook.comのコメント欄より: ソース , ソース


Haley Proehl Tower Records is not dead????
(タワーレコードがまだ死んでいない????)

Soy Sauce タワーレコードとかゲームのクレイジータクシーでしか見たことなかったから日本で見てびっくりした。もうとっくに地元じゃ消えてたし。

C.Talmon 🌙 🦀 🌞 🏹 🏺 🔭 タワーレコードがあるとかマジ?
羨ましい限りだ、私はとても恋しいよ。

Owen Baron ワシントンD.C.のダウンタウンに行く度にかつてそこにあったタワーレコードを思い出す。今もあってくれたらどれだけ良かったか...

kingRidiculous 同じく、ワシントンD.C.のタワーレコードが恋しいよ。

Enid Coleslaw 前に東京と大阪のタワーレコードに行ったことがあるけど今も健在のようで何よりだ。

Oren Roth-Eisenberg 渋谷のタワレコの前を通ったわ、今もあるのを知ってかなりビビった。

mrbrown ‏ 私も東京を訪れて驚いたアメリカ人の1人だよ、昔にタイム・スリップしたかのような気分にさせられたわ。

Sandon Branderson これはまた奇妙な...ビジネスの進化と言ったらいいのか? 動物がある地域で適応し、進化し、広がり、元々の生息地では死に絶えたみたいな話だ。

Bo Chulawan 全米最大級のスポーツ用品専門店チェーンだった『スポーツオーソリティ』も日本で生き残っているアメリカブランドの一つだな、これも2016年に破産し全店舗が閉鎖された。

Jeff Gaskell オハイオ発祥のローソンもそうかね、日本では爆発的に普及したがアメリカには店舗が残らなかった。(※Wikipediaによるとハワイには2店舗存在している)

keep your electric eye on me 興味深い話だった。それとこの話は実店舗に限らない、日本では大企業だけど他の地域じゃ死にかけてるYahooなんかがその例だ。

Adam Dooley タワーレコード世代の自分は東京のタワレコを訪れるのがとても楽しみだったりする。1~2時間ほど時間を潰すには最適の場所だよ。

JonathanLightman 2017年に大阪を訪れた時にアメリカではもう無くなってしまったタワーレコードを見て驚いた。どうして日本でまだ生き残っているのか不思議だったが、そういうことか。

Peter Meiszner 日本、特に東京を訪れるのが楽しい理由はたくさんあるがこれもその一つだね。

Parthepan 日本に行くと自分が1990年代にいるかのような感じに襲われる。この時代に対するノスタルジアが強すぎるせいだろうが。

Ben FAXも健在だぜ。

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