イギリスの大手一般新聞『ガーディアン』傘下のサッカー情報サイト『These Football Times』より

日本代表のピークと国内リーグの奈落の狭間でもがく日本の女子サッカー

How Japan is stuck between national team peaks and domestic troughs, with World Cup winner Megumi Takase - 03/22/2018 by STEVEN SCRAGG

神戸、豊かな歴史を持ちつつもモダンなビル群が立ち並ぶ賑やかな港湾都市として知られるこの場所に我々はヒュンメル(デンマークのスポーツ用品メーカー)からの招待を受け、兵庫県神戸市を本拠地とする日本女子サッカーリーグに所属する女子サッカークラブ『INAC神戸レオネッサ』のトレーニング施設を訪れた。


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私はワールドカップ優勝を経験した選手とテーブルを挟んで座ったのは今回が初めてだったが、目の前にいる高瀬愛実は王者らしからぬ想像以上に謙虚な人だった。

彼女が日本代表として参加した2011年のFIFA女子ワールドカップで日本は男女を通じてアジア勢では初となる優勝を飾った。FIFA主催の世界大会で日本代表が優勝したのは男女・年代別通じてこれが初めてであり日本中の人々はその勝利に沸き国内に空前のブームを巻き起こした。

その偉業は彼女を日本の女の子たちにとっての手本/模範となる人物にしたはずだが、私がその自覚はあるかと尋ねると、彼女は頭をわずかに傾け認知できるかできないかギリギリに口角を上げかすかに肩をすくめた。

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高瀬愛実は子供や社会全体に与える影響に関心がないわけではない、彼女はただ自分が人々の模範やインスピレーションであると強く確信できない様子だった。自分が特別な存在であるという見解は彼女の中にはなかったようだ。

インタビューの中で彼女は、兄弟姉妹たちとサッカーをしていた子供の頃から非凡な才能を持っていると見られていたことを素直に認めた。サッカーを続けることに関して少なくとも彼女の家族からはたくさんの励ましがあり、家族の "女性がサッカーをする事" に対する肯定的な姿勢に恵まれた、その影響が大きかったことを語った。

彼女は自分が人々の模範やインスピレーションを与える存在である自覚はあるかという質問には困惑した様子だったが、日本の女子サッカーに対する関心の高まりは感じているようだ。



2011年にドイツのワールドカップで優勝するまでは日本では女性がサッカーをすること自体が奇妙なことと思われていたが、今では当時よりもはるかに多くの女性がこの競技に参加している。その偏見は2011年の勝利だけでなくその後の女子代表チームのさらなる成果によって払しょくされた。

高瀬愛実自身は2011年のワールドカップの大半をベンチから眺めていた。彼女が出場できたのは準決勝のスウェーデン戦、途中出場の4分間だけだったが、それは我々が夢見ることしかできない特別な経験であることは間違いない。INAC神戸レオネッサのトレーニング施設で、チームメイトである仲田歩夢と並んで座る高瀬愛実と机を挟んで対面する私は、少なからぬ畏敬の念を感じていた。

仲田歩夢、日本が準優勝した2010稔夫FIFA U-17女子ワールドカップで6試合中5試合に出場した彼女も家族の温かい応援の元でプレーしてきたという。

日本人のスポーツに対する情熱は国際的なステージで最も明るく燃え上がる。クラブを中心とした部族主義はゆっくりと浸透しているが、日本の大部分の人々は日本代表チームまたは自国を代表する個人(スター選手)を通してしかこのスポーツを見ていない。

そのような状況の中で高瀬愛実は日本の女子サッカーを映し出すの2つの対比的なイメージを目にした。過去2回のFIFA女子ワールドカップで優勝と準優勝を勝ち取り国民の目を集めた日本代表と、その一方で関心を集めるのに苦慮している国内リーグだ。

サッカーに専念できる彼女は幸いだ、INAC神戸レオネッサの選手として試合をすることとそのためのトレーニングすることは彼女の仕事だ。だが他の多くの女性はそのような幸運に恵まれていない。

日本女子サッカーのほとんどのクラブや選手にとってそれはパートタイムの仕事だ。選手の多くがアマチュアでサッカーを続けるために別の仕事をする必要がある、そのような状況の中でチームの質の維持に苦しんでいるクラブは少なくない。


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高瀬愛実が所属するINAC神戸レオネッサは幸いにもそのようなクラブの1つではなかった。このクラブチームは日本の女子サッカーリーグである『なでしこリーグ』で2011年から2013年にかけて3連覇を達成して以降優勝からは遠ざかっているが、最近では2015年と2016年に皇后杯で優勝、現在リーグのトップチームである浦和レッドダイヤモンズ・レディースと日テレ・ベレーザと共に三つ巴の戦いを繰り広げファンを沸かしている。

だがそれでも日本の女子サッカーに対する活字メディア、あるいはテレビ報道による扱いは他のスポーツと比較して低いままだ。さらにINACの試合は2017年の春までは日本のBSフジで放送されていたがその契約は終了し、今ではオンラインで自分たちの試合を放送している。

INACのコミュニケーションマネージャーの上田香織はテレビとの契約の喪失は特にダメージが大きく、メディアでの宣伝にどれほど苦労しているかを吐露した。ちなみに2011年のワールドカップ優勝以後にはメディアとの交渉は急速に増加したが、そんな中でもビッグ3以外にスポットライトが当たることはほとんどなかったという。

収入源が減る中でINACはYoutubeやTwitterを効果的に活用し、試合だけでなく練習風景や選手のプロフィール、独自の番組などを含む様々なコンテンツを作りクラブの魅力をより多くの人々に伝えることでサポーターを増やす努力をしている。

INACTV webより

だが日本女子サッカーリーグのクラブが抱える葛藤はメディア露出だけではない。

三宅博人、彼はクラブグッズを扱いフラッグやユニフォームなどオリジナルグッズの制作サポート、チケット販売や現役/退役選手を招いたイベント開催など手掛ける女子サッカーサポーターのための店舗『FC六間』を経営している。それは一種のコミュニティセンターとして機能する施設だ。

三宅博人は10年ほど前に友人から紹介されてこのスポーツに遭遇、女子サッカーのチームとサポーター、そしてサポーター同士を繋ぐコミュニケーションが不足していると考え2013年12月にこの店をオープンした。

そんな女子サッカーを応援し続けてきた彼は、この競技への参加者の数は絶えず上昇しているが、その一方で観客数はかなり頭打ちになってきていると主張する。INACは1試合に最大3,400人近くの観客を集めるというが、これは他のクラブと比較してかなり多い数字だ。

(INAC神戸レオネッサはピーク時には1試合に約2万人の観客を動員したとのこと:ソース



また日本は2020年に東京オリンピックの開催を控えているが、三宅博人はそれが女子サッカーの国内リーグの発展に打撃を与える可能性を危惧している。人々の視界から外れること、頭の中から消えること、私が日本に来てから話した全ての関係者は今後の国内リーグに関して話をするときにその懸念を漏らしていた。

日本の女子サッカーはグラウンド上のヒーロー、新しいスター選手の出現を必要としているということを全ての人が感じていた。過去のビッグネームの多くが北米やヨーロッパに渡っていくなかで、伝説に残るほど有名な澤 穂希は日本でプレーし続けたが、彼女がグラウンドから姿を消したことで日本女子サッカーには埋められない空洞が残り続けることになる。


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澤 穂希は2011年にFIFA最優秀選手賞を受賞しその年のワールドカップの決勝のアメリカ戦で延長後半12分に同点ゴールを決め日本サッカー史上初のW杯優勝に大きく貢献した。200回以上も日本代表として出場した彼女はまさに日本女子サッカーのアイコンだった。三宅博人は第二の澤の誕生に希望を抱いていると語る。



一方で高瀬愛実は日本の女子サッカーリーグの才能の流出がさらに加速する可能性を指摘している。日本のサッカー協会は海外でプレーする選手に助成金を出して支援している、他の国でプレーするという考えは選手にとっても日本代表チームにとっても魅力的な話だ、特にその国がアメリカなら(※女子サッカーの競技人口は2013年5月時点でアメリカが約130万人、ドイツが約106万人、日本は約3万人)。だが一方でそれは厄介な因果関係を生じさせている。

日本人選手が海外のクラブチームに参加すればそれは日本代表チームの能力の向上につながる、だがそれは国内リーグからの才能の流出を意味し、国内リーグが弱くなればなるほど余計に海外で活躍する日本人選手や日本代表にスポットライトがあてられるのだ。この国内リーグと国際試合に対する日本人の受け止め方のギャップは非常に顕著だ。

もちろん三宅博人が懸念する2020年の東京オリンピックが国内リーグの追い風となる可能性もある。2011年のワールドカップで優勝した際には国内リーグに対する関心が一気に盛り上がったが日本が再び決勝に至った2015年のワールドカップではそれが反映されなかった。日本代表が明るく輝けば輝くほど国内リーグが陰に隠れるジレンマを人々は感じていたが、2020年の東京オリンピックは国民の目をスポーツ界全体に向けさせる。日本の代表チームがトーナメントで良い成績を残せば女子サッカー全体に対する新たな勢いを作り出すことができるはずだ。

さらに日本は2023年の女子ワールドカップの開催国に立候補しており、仮に日本が選ばれればその勢いはさらに加速するはずだ。



だが一方で高橋は状況をもっとシビアに見ている。インタビューの最後に、高瀬愛実は日本のクラブサッカーの今後に変化はあまり見られないと、選手のレベルは上がるが彼女らを取り巻く条件/環境は変わらないだろうと断言していた

サッカーは今、バレーボールやバスケットボール、テニスを相手にどれだけ日本の女の子たちの注目を集められるかで争っているが、高瀬は自国における女子サッカーの価値は未だに高くなく、またそれが劇的に向上することはないと感じている。



高瀬は自分自身を日本女子サッカーを鼓舞する存在であると、象徴する存在であると考えていないのかもしれない、だが2011年ワールドカップを契機に日本の女子サッカーチームの数も選手もそれまで以上に増え続けているのも確かだ。

そして今も子供たちは、感受性が強く影響を受けやすい子供たちは彼女のサインを求め列に並んでいる、そしてその中に未来の澤 穂希がいないなど誰が断言できようか。

高瀬と彼女のチームメートは、彼女らがそれを自覚しているかどうかにかかわらず、やはりインスピレーションなのだ。

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