2018年ノーベル医学生理学賞受賞者らは免疫システムを調整することでがんと戦う方法を見つけた
The winners of the 2018 Nobel Prize in medicine found ways to tweak our immune system to fight cancer - 2018/10/02科学者らによる過去1世紀にわたる研究、そして画期的なブレイクスルーによってがんはかつてほど致命的な病気ではなくなった。そして今年の医学生理学賞受賞者らはその分野に飛躍的な進展をもたらす発見をした2名の科学者に授与された。
日本の京都大高等研究院の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授と米テキサス大のジェームズ・アリソン教授の両名は『免疫応答の負の制御因子への阻害によるがん治療法の発見』によりこの栄誉ある賞を手にした。
この研究がいかに重要かを理解するために必要なことは次のとおりだ。
ノーベル賞の公式TwitterアカウントBREAKING NEWS
— The Nobel Prize (@NobelPrize) 2018年10月1日
The 2018 #NobelPrize in Physiology or Medicine has been awarded jointly to James P. Allison and Tasuku Honjo “for their discovery of cancer therapy by inhibition of negative immune regulation.” pic.twitter.com/gk69W1ZLNI
「速報: 2018年ノーベル医学生理学賞が『免疫応答の負の制御因子への阻害によるがん治療法の発見』で本庶佑 氏とジェームズ・アリソン 氏に共同で授与される。」
がんとはヒトの細胞が悪性のものに変異したものである
仮に『がん』と呼ばれる病気がウイルスやバクテリアによるものであれば人類は容易に打ち勝つことができただろう。我々の免疫システムは何百万年もかけて "外部" の脅威に対処できるよう進化してきた。そして現代医学はそのような侵入者を撃退する外部からの対処方法を人にもたらした。だが がんに対する対処となると話は別だ、それは外部からの脅威ではなく自らの細胞が悪性のものに変異したものであるからだ。そのため放射線や化学療法など現在最も普及しているがんの治療方法は癌細胞だけでなく健常な細胞まで攻撃してしまう無差別なものになってしまいがちだ。手術はより選択的な除去を行うことができるが必ずしもすべての癌細胞を取り除くことはできない。そして血液の癌などにいたってはその手術すら不可能だ。
その一方で科学者らは100年以上にわたりヒトが最初から持っている免疫システムにより癌細胞を治すことはできないかと模索してきた。
人体に侵入してきた細菌やウイルスを攻撃したり排除したりするヒトの免疫システムの司令塔となる存在がT細胞であり、それらは「自己」と「非自己」を区別するための受容体を有している。T細胞はがん細胞を「自己」として認識してしまうためにヒトの免疫システムによるがん治療は難しいとされてきた。
だがその癌細胞を「非自己」の細胞として認識できるように、あるいは区別する能力自体を抑制するような微調整をT細胞に施すことができれば画期的な癌治療法となるはずだ。
免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療の発明
今回ノーベル賞を受賞した本庶教授とアリソンの発見の以前からT細胞にはブレーキとアクセラレータ(促進因子)があることが知られていた。ヒトの免疫系は侵入者を攻撃するために活性化を促すアクセラレータと自分自身の細胞を攻撃しないよう活性化を抑制するブレーキを持ちそれは複雑なバランスで成り立っている。しかし癌を攻撃するよう免疫システムを促す試みは困難を極めた。
1990年代、カリフォルニア大学バークレー校のアリソン教授は "T細胞の免疫機能の活動を抑えるブレーキ役" を担うタンパク質受容体CTLA-4の活性化の研究をしていた。CTLA-4受容体の活動を活性化させる薬の研究はこの時点ですでに、免疫系システムの過剰反応により自分自身の正常な細胞や組織まで攻撃を加えてしまう自己免疫疾患の治療をするため行われていた。
そんな中、アリソン教授は受容体の活動を促進する代わりにその活動を抑制したらどうなるかと疑問に思い実験を開始する。するとT細胞はより活性化し癌細胞を攻撃するようになることを発見した。製薬業界はこの結果に関心を持たなかったがアリソン教授はその後も研究を継続した。
それとほぼ同時期に太平洋の向こう側では日本の京都大学の本庶教授がPD-1と呼ばれるCTLA-4とは別の "T細胞の免疫機能の活動を抑えるブレーキ役" を担うタンパク質受容体を研究していた。同じようにPD-1受容体の活動を抑制する実験を試みた本庶教授はT細胞ががん細胞を攻撃しはじめる同様の結果を発見する。さらに良いことにPD-1の場合CTLA-4よりもさらに広い範囲のがんに対し有効であることがわかった。
それから20年近く研究が続けられた結果、2010年代には複数行われた臨床試験により両氏の発見ががん治療に有効であることが証明され始める。PD-1阻害療法は肺癌、腎臓癌、皮膚癌、およびリンパ腫(免疫系の癌)に対して有効であることが知られるようになり、CTLA-4とPD-1の両方の活動を阻害する併用療法はメラノーマ患者に対しさらに効果を発揮した。
今日、これらの癌治療法は『免疫チェックポイント阻害療法』と呼ばれている。T細胞が健康な細胞を攻撃することもあるため他の癌療法と同様に副作用はあるがそれは制御が比較的容易で過剰反応を抑える研究が続けられている。
ノーベル賞委員会は本庶佑特別教授とジェームズ・アリソン教授の研究に対し「免疫チェックポイント阻害療法はがん治療に革命をもたらし、がんをどのように克服するかという考え方を根本的に変えた」と述べている。
ノーベル賞の公式TwitterアカウントWatch the moment the 2018 Nobel Prize in Physiology or Medicine is announced.
— The Nobel Prize (@NobelPrize) 2018年10月1日
Presented by Thomas Perlmann, Secretary-General of the Nobel Committee. pic.twitter.com/uSV5gp6A5P
「2018年ノーベル医学生理学賞が発表される瞬間をご覧ください。」
ノーベル賞の公式TwitterアカウントJust in! Nobel Laureate Tasuku Honjo, surrounded by his team at Kyoto University, immediately after hearing the news that he had been awarded the 2018 #NobelPrize in Physiology or Medicine. pic.twitter.com/8TdlnXiSLe
— The Nobel Prize (@NobelPrize) 2018年10月1日
「ノーベル賞の栄冠に輝いた本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授を彼の率いる京都大学のチームが囲む様子、2018年医学生理学賞受賞のニュースが飛び込んできた直後に。」
ノーベル賞の公式TwitterアカウントThis year’s #NobelPrize constitutes a landmark in our fight against cancer. The discovery made by the two Medicine Laureates takes advantage of the immune system’s ability to attack cancer cells by releasing the brakes on immune cells. pic.twitter.com/2mppP3NT19
— The Nobel Prize (@NobelPrize) 2018年10月1日
「今年のノーベル賞は癌との戦いにおいて画期的な研究が選ばれた。 医学生理学賞の栄誉に輝いた2人による発見は免疫細胞のブレーキを解除することによって癌細胞を攻撃する免疫系の能力を利用するというもの。」
ノーベル賞の公式TwitterアカウントUntil the discoveries made by the 2018 Medicine Laureates, progress into clinical development was modest. “Immune checkpoint therapy” has revolutionised cancer treatment and has fundamentally changed the way we view how cancer can be managed.#NobelPrize pic.twitter.com/ExVk7fHesr
— The Nobel Prize (@NobelPrize) 2018年10月1日
「100年以上にわたり科学者らは免疫システムによるがん治療を試みてきたが、 2018年ノーベル医学生理学賞の受賞者である二人による発見まで薬の開発の最終段階である臨床試験に進むこと自体そう多くなかった。だが『免疫チェックポイント阻害療法』はがん治療に革命をもたらし、がんをどのように克服するかという考え方を根本的に変えた。」
免疫細胞の表面に存在するタンパク質PD-1の結合を阻害する抗PD-1抗体を使った非小細胞肺がん患者に対する免疫チェックポイント阻害療法の臨床試験(2012年にジョンズ・ホプキンス大のスザンヌ・トパリアン教授らが実施)
2か月目に腫瘍があたかも大きくなった様に見えるのは治療が効いているのに見かけが悪くなるスード・プログレッションという現象によるものであることに注意されたし。これは免疫細胞が浸潤した結果であり、術後4か月目には腫瘍の大きさが縮小している。
ノーベル賞の公式TwitterアカウントCancer kills millions of people every year and is one of humanity’s greatest health challenges. By stimulating the ability of our immune system to attack tumour cells, this year’s #NobelPrize laureates have established an entirely new principle for cancer therapy. pic.twitter.com/6HJWsXw4bE
— The Nobel Prize (@NobelPrize) 2018年10月1日
「がんは世界中で毎年何百万人もの人々の命を奪っており、それは人類の最大の健康課題の一つだ。 人の免疫系が腫瘍細胞を攻撃する能力を刺激する方法を発見したことで今年のノーベル賞受賞者らは癌治療の全く新しい原則を確立した。」
緑色のY字=抗CTLA-4抗体(左)、抗PD-1抗体(右)
APC=antigen presenting cell=免疫の司令塔を担うリンパ球「T細胞」を活性化する細胞である 抗原提示細胞
T=T細胞
Cancer Cell=がん細胞
各図の左下の黄色の絵=ハンドブレーキとフットブレーキ
T-Cell Accelerators=T細胞活性化促進因子
T-Cell Receptor=T細胞受容体
図の上半分はヒトの免疫細胞の表面にある "T細胞の免疫機能の活動を抑えるブレーキ役" を担うタンパク質CTLA-4(左)、PD-1(右)が働き、がんを攻撃する働きが弱まっている状態。
図の下半分は抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体、つまり免疫チェックポイント阻害剤がそのブレーキを外し、がんを攻撃する働きを活性化させた状態。
補足: CTLA-4タンパク質自体は免疫応答の重要な負の制御因子であり過剰な免疫応答の抑制、つまりは健康な細胞や組織まで攻撃することを避けるために発現する。マウスを使った実験ではこれが欠損すると致死性の自己免疫が引き起こされた。 ソース
海外の反応
twitter.comのコメント欄より: ソースMelayne Mills Congratulations👏👏👏👏👏😌
Heather L Holden なるほど、確かにこの二人のノーベル賞受賞は相応しいものだ。
KC Dill 私はこの免疫療法によって命を救われた患者だ。私のヒーローであるアリソン博士の名がこうして広く知られるようになったことがとても嬉しい。感謝の気持ちでいっぱいの患者からこの栄誉に輝いたお二人に祝福の言葉を贈らせてもらうよ。
Tryambak Srivastava まさに革命的な治療法を確立したわけだ。その偉業がより多くの人々を科学の道に進むよう促すことになればいいな。おめでとう。
Mary Oboh おめでとうございます! 科学を志す者にとってこれ以上ないくらいに刺激になるニュースだ。人よ、人類に貢献できるものを探そう。人類はいつかあなたを認識してくれるはずだ。
Roxanne このお二人には感謝してもしきれない。私の母はまさにこの治療法で良い結果が出たばかりだ、彼らの発見がなければ母はもうこの世にいなかったかもしれないんだから。
jeremytx1995 がん研究では初の受賞だな。特に近年は免疫療法に対する注目が集まっているしいいチョイスだ。
Tara Brantley とても素晴らしいニュース。ステージ4の癌で化学療法に入ってから7か月目だがこの研究の恩恵にあずかれたらと思う。
Mark Peifer まさに基礎研究が科学の分野に大きな躍進をもたらすその典型だな。
Nirmal Bandyopadhyay 世界中の人々に希望をもたらす研究ってのがまたいいじゃない。
Salvador Hernández López がんを患い化学療法を体験した人間として言わせてもらう、がんは恐ろしい病気だ。死の恐怖と向き合いながら生きなければならない日々を私は知っている。希望を抱かせてくれる偉大な発見をした2人に心からの感謝を。
Rob M. 抗がん剤による痛みやしびれは時間と共にひどくなる一方だ。私たちがん患者は救済を必要としている。どうかお願いだから治す方法を見つけ出してくれ。
East Oregon Lawyer 日本の本庶教授がロナルド・レーガンに見える、私だけ?
Dr Libia A. García Flores 日本の本庶教授のチームはずいぶんと多様性があるな... いいじゃない。とにかく人類のために貢献してくれたお二人にただただ感謝だ。
Samas 日本は移民が少ないって話を聞くけど先端技術の現場は違うんだな。
Paul Barnes 成功への鍵はやはり多様性なのだよ。
Debdatta 最も栄誉ある賞に相応しい偉業だ。
arno luke うん、記事も読んだけど私には複雑すぎてあれだな。
BubblyDoo ノーベル委員会が公開したこの『免疫応答の負の制御因子への阻害によるがん治療法の発見』とやらを解説したPDFを読んだんだけどわけわからんかったわ...
Kriya Reddy 素晴らしいが何より実に興味深い研究だ。人々にとってこの治療法がもっと身近なものになることを願ってならない。
Gma's a G 85歳になる私の母はステージ4の肺癌との診断を受けたがそれから22か月後の今、母は生きているしとても元気だ。MRIでも腫瘍は完全に見えなくなっている。がん治療が新たな時代に入ったことを実感させられたよ。
HAFP 私の父は 中皮腫(肺や心臓などの臓器を包む膜の表面をおおっているのが中皮でその中皮から発生した腫瘍)を患い免疫療法を受けている所なんだけど経過は良好だ。このノーベル賞のニュースを聞くまでお二人のことを全く知らなかったけどこうして知ることができて良かった。感謝の気持ちでいっぱいだ。いやぁ、人間ってすごいね!
Awara これで心置きなくタバコが吸えますぅ 😜
CNN公式TwitterアカウントAmerican James Allison and Japan's Tasuku Honjo have won the 2018 Nobel Prize in Medicine for a pioneering new approach to cancer treatment https://t.co/P3qUlHOCpy pic.twitter.com/TeaBSXmnci
— CNN (@CNN) 2018年10月1日
「アメリカのジェームズ・アリソン氏と日本の本庶佑氏が癌治療に対する全く新しいアプローチを開拓したことで2018年ノーベル医学生理学賞を受賞。」
Secret Op Ed Author OK、認めよう。日本のタキシードはアメリカのものより遥かにクールだ。
彼らは移民っていうよりガチガチに勉強している研究者の卵の留学生なんやろうな。
返信削除そして場合によってはアメリカに移ったり自国に帰って研究所の職員になって貢献したりするんやろ。
ただの移民と一緒にしたら可哀想や。
異様な多様性万歳主義って何かカルトじみてると思う。ただなるようになった結果でいいじゃん。
削除本庶教授の和装かっこよすぎワロタ
返信削除俺もそれに目がいった。渋くてかっこいいわ
削除いつの写真だろう、会見はスーツだっけ?
この和装は2015年の文化勲章の時のものだ
削除ホントにそれ。和装かっこよすぎ。ファンになっちゃうわこんなん
削除わかりやすい詳しい説明ありがと
返信削除ノーベル賞公式が描いたイラストでタレ目になってるの何気にすごいわ
返信削除日本人はどんな顔でも吊目で描かれること多いからな
若い頃はモテモテだっただろうね>本庶教授
返信削除和装の写真は台湾で唐奨受賞した時のか
返信削除紋付き袴なんて
返信削除この先一生着ないやろうなぁ
誰かの結婚式で着ればいいのよ
削除もちろん自分の時なら・・
今回も硬直化した予算編成に物申すノーベル受賞者のようでよかった
返信削除財政健全化とか社会保障費増大抑制とか社会変化将来投資へのビジョンが未だに貧弱硬直化したまま
根本的な財政概念の転換を与えるような理屈を考えて
将来不安の解消に近づけてみろよ財務省