オーストラリアの公共放送局『ABC』より

なぜ道路が左側通行の国と右側通行の国があるのか?

Why some people drive on the right, and some on the left - 2018/10/31

数年前、私は友人と共にハワイを訪れ現地での移動手段として車をレンタルした。そしてこの写真がその一日目、駐車場でおどおどしながら運転している様子だ。そうなったのは別にオーストラリアからハワイまでの長時間のフライトで疲れていたからでも運転が苦手だったからでもない、オーストラリアでは道路の左側を走行するが米国では右側を走行しなければならないからだ。



世界のほとんどの国々、約2/3は右側通行を採用している。こう聞くとなぜ左側通行の国は世界の主流である右側通行に切り替えないのかと疑問に思うかもしれない。しかし実際は人類史において左側通行こそが世界的な基準だったのをご存じだろうか?

それは "利き手" と "通行方向" が密接な関係にあるためであり、そしてそこから各国の様々な事情により現在のよう変わっていった。

人間のほとんどは右利き

車が存在するよりはるか前、人々の移動手段と言えば馬か徒歩でありそのころから人々は利き手側の空間、つまり右側が広くなるように道路の左側を通行していた。現代と違い中世以前の旅路では盗賊や無法者(Bandit)が現れる危険性が常に付きまとっていたため剣やナイフなどの武器を携帯することが一般的であり、利き手を道路の中心側に置いた方が武器を扱いやすかったからだといわれている。



また馬に関してもほとんどの国で "左から乗る" のが常識として習慣になっている。そのため左側通行の方が安全と考えられてきた、右側通行の場合道路の中央で乗り降りしなければならなくなるからだ。
なぜ馬は左側から乗るのか?
ほとんどの人間が右利きであることから馬を引くのも右手になり、そのため進行方向に対して人が左/馬が右になることからそのまま乗ろうとすると必然的に左からになる、また人は武器を右手で取りやすいように左腰に差していたため馬の右から乗ろうとすると武器が邪魔になるといった説が一般的。

また「馬は左側から乗る」がはるか昔から一般的であったため左から乗り降りすることを前提に訓練され続けたことから右から乗ると馬は嫌がるとのこと。

ただし明治維新前の日本ではなぜか「馬は右側から乗る」のが一般的だった模様。

ソース1ソース2ソース3

ヨーロッパではフランス革命がきっかけで右側通行が主流に

これらの理由から世界中で左側通行が通例となっていたがフランス革命により変化が起こる。 当時、封建的な身分制にあったフランスでは道路もまた階級による差別を象徴するものであった、道路の左側は裕福な人々が使う馬車のためのスペースであり貧しい人々は右側を歩かなければならなかったのだ。



しかし1789年にフランス革命が起こりジャコバン派による恐怖政治の下で特権階級がギロチン台に送られ続けた結果、貴族達は注目を集めることを避けるために道路の左側の通行を避け、下層階級と混じり右側を通行するようになる。そして1794年には正式に右側通行が法令化され後にナポレオンが欧州各地を占領、フランスのルールに従うよう強いたため欧州は右側通行へと変わっていった。



一方イギリスでは馬車による交通量の増加から政府が1773年に左側通行を勧告、1835年に法律を制定し正式に左側通行を義務化した。
一部 stackexchange.comより補足

通商路の開拓がアメリカを右側通行に

一方アメリカではコネストーガ幌馬車 と呼ばれる大きく幅広の車輪を持つ大型の幌馬車が右側通行の流れを生む原動力となる。

重い荷物を輸送する手段として1700年代後半から広く使われるようになったこの巨大な幌馬車は何千キロもの貨物を積むことができたがその動力として複数からなる馬のチームが必要とされた。



馬車部分に運転席がなかったため運転手は馬の一団すべてに "右手で" 鞭を打てる左最後部の馬に乗るのが一般的だった。この位置関係により道路の左側を空けた方が前方の視界が良くなることからコネストーガ幌馬車は道路の右側を走行するようになるのだ。



1792年には正式にペンシルベニア州がヨークとフィラデルフィアを結ぶ幹線道路に米国では初となる右側通行を義務化する法律を施行、その12年後にはニューヨークがすべての公道での右側通行を義務化、次第にアメリカの他の全ての地域へと広がっていく。



時がたつとともに右側通行の流れは次第に周辺国へと広がっていくのだがアメリカでステアリングホイールが左側にある車が普及し始めたことでその流れは加速した。

自動車も当初は馬車に倣いステアリングホイールが右側にあったが、1908年に発売され自動車の大衆化を果たしたT型フォードで左側ホイールが初めて採用される。

フォードは単にアメリカの道路事情から運転席を左側にした方が乗客の乗り降りがしやすくなると考えそうしたがその方が安全でよりアメリカの道路に適しているとの考えが広まり他の自動車メーカーもそれに追従していくことになる。

アメリカは当初世界最大の自動車輸出国の一つであったためそれは多くの国にとって右側通行に変わる後押しとなった。そして国境を接する近隣の国々が右側通行に変われば変わるほどそれに続いた方が都合が良いことから右側通行はより普及した。

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左側通行の国々

しかしすべての国が通行方向を転換したわけではない。すでに左側通行の法律が施行されていたイギリスとその植民地は現在もそのほとんどが左側通行を維持している。イギリスと関係の深かった日本やタイのような国々も同様だ。
一般的に日本が現在でも左側通行なのはイギリスの制度を取り入れながら近代化したためとされている。




とは言え20世紀初頭から半ばにかけてほとんどの国が右側通行を導入していった。逆に近世に右側通行から左側通行に切り替えた国は1975年の東チモール、1978年の日本・沖縄、2009年のサモアの3か国のみである。

日本では第二次世界大戦後、沖縄は米国によって占領されていたため米国と同じ右側通行が適用されていた。1972年5月15日に沖縄は日本に返還されたもののそれから6年後の1978年7月30日になってようやく本土と同じ左側通行に切り替えられる。

東ティモールは1975年にインドネシアが同国を占領したことで左側通行に切り替えられた。

サモアは2009年に左側通行に切り替えた。サモアには自動車産業がないため輸入車、特に中古車の輸入に頼ってきたが同じく右側通行のアメリカから輸入するよりも左側通行のオーストラリアから輸入した方が遥かに安く済むことから、またオーストラリアやニュージーランドには17万人以上のサモア人が住むことから彼らが自国に帰国した際に道路事情で混乱することを避けるために左側通行の導入が決められた。



一夜にして道路を左側通行から右側通行に変えたスウェーデンの大事業

サモアでは左側通行の導入時に交通量を減らすため最初の2日間を祝日にし事故を防ぐためにアルコール販売を3日間禁止するなどの対応を取ったため比較的混乱もなくスムーズな切り替えが行われた。もっともこれはサモアが人口約18万人の小さな島国だったことが大きい。では島国でもなくもっと人口が大きな国で通行方向の切り替えが行われたらどうなるだろうか?

右側通行のノルウェーやフィンランドと陸続きであるスウェーデンは1967年に左側通行から右側通行に転換したが当時の人口は約780万人、通行方向の切り替えには多くの準備が必要とされた。

道路標示は再塗装されなければならず、全てのバス停は再配置され、交差点や一方通行の道路も見直され、国内にある約36万個の道路標識を更新しなければならなかったのだ。そして多くの国民が活動している日中にルールを変更した場合より混乱を招くとの判断から新ルールは日曜日の9月3日の午前5時に一斉に適用された。

この切り替えプロセス全体で6億8,800万クローナ、現在の価値で4億ドル以上に相当する費用が生じたという。



現在の道路ネットワークとインフラはスウェーデンが大改革を行った50年前と比べはるかに洗練されたものになっているのはもちろんのこと、人や車の数も圧倒的に増加している。そのため今このような大改革を行うことははるかに困難でコストもいくらになるか想像もできないレベルだ。今そのような話が全く聞こえてこないのも当然といったところだろう。

ちなみに世界の通行方向を表した世界地図だがこれを見た際に左側通行の国は島国であることが多いことにあなたも気付いただろう、陸続きの国境がないのだから周辺国と歩調を合わせる必要性も薄いのだ。

では左側通行の国で右側通行の国と陸続きで接する国ではどうしているのかというと、EUのヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可するシェンゲン協定のようなものがない限り基本的に国境の道路には税関があるため国をまたいで移動する際にはそこを通らなければならない、なので実際はそれほど問題にはならないのだ。

しかしいくつかの国は中々におもしろい解決策を考え出していたりもするのである。

figure via triviahappy.com
右側通行の中国と左側通行のマカオを結ぶ国境の橋『ロータス・ブリッジ』には左右を切り替えるためのインターチェンジが設けられている。

図は左側が中国本土、右側が中国の特別行政区マカオになっており、 赤い車は右側通行の中国から来た車でインターチェンジを過ぎると自然と道路の左側を走る仕組みになっている。

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海外の反応

Youtubeのコメント欄より: ソース


Trolligarch オーストラリア人としてはなんで道路の左側じゃなく間違った側を走る国がこんなにも多いのかと疑問に思ってたが納得。

MrAlfre2000 なぜ道路のRight(右/正しい)側を走らず間違った側を走る国があるのか私も疑問に思ってたよ、なんでぇ、単に島国根性のせいじゃねぇか。

Motorheadbeany 1 インドは島国ですかそうですか。

MrAlfre2000 確かにインドは例外だな、それとアフリカの一部も。古き良きイギリスの帝国主義の名残やな。

SimpleAs Liam どう考えてもたいていの人は右利きなんだから右手でステアリングホイール、左手でギアを操作する方がアメリカやヨーロッパのやり方よりも理にかなってる、っつーか正しいがな。

Max Zomboni シフトレバーの操作の方が複雑な操作だからいいのだ。

Max Zomboni どちらか一方に動かせばいいステアリングホイールと違ってシフトレバーは明らかに動きが複雑、よって利き手でシフトを操作する方が正しい。

Rolo A 複雑かもしれんがどっちがより重要かっていったらステアリングホイールなわけで。

Yu Heng Tay 利き手だけじゃなく利き目もほとんどの人が右だ、反対車線をまたいで右折する時に道路の状況がより認識できるという点においても左側通行の方が理にかなってる。

Justine-Paula Robilliard 人間は危機が迫った時に本能的に右腕を犠牲にして心臓を守ろうとする。だから前から車が突っ込んできたり目の前で事故が起きたりすると人は自然と左に曲がる、とっさに心臓を守ろうとしてしまうからだ。その場合左側通行と右側通行とでどちらがより危険かは言うまでもなかろう。

Phillip Leong ドリフトする際には推進力もそうだが車を正しい方向に向けるために正確なステアリングホイール操作が、つまり利き手による操作が必要になる。日本人が真のドリフトキングである理由さ。

Robert Cubinelli イギリス連邦の国のほとんどが左側通行だとは気づいていたがなるほど。

JCS 右側通行が当たり前だと思ってたけど昔は世界的に左側通行が当たり前だったってのは意外な発見。

Michael Irish バイクも左側から乗るがこれも馬由来のものやね。

beyazguevercin とても興味深いビデオだった。ちなみにマップには書かれていないけどキプロスやマカオ、香港なんかも左側通行だ。

Binod chhetri ネパールもだよ。

Matthew Heffernan 右でも左でもどっちでもいいがウインカーのレバーだけは統一してくれい。国が法律で統一するようにしてほしいわ。トヨタや日産なんかはその辺ちゃんとしているのにフォルクスワーゲンとかは右ハンドルなのになぜかウインカーレバーは左のまま... 車をレンタルした時とか最悪だ。曲がろうとしたときにワイパーが動くと本当にビビるで...

goulash75 発展途上国とかだと基本的に海外からの中古車ばかりが走っているから右側通行なのにハンドルが右の車ばかり走っている国がかなりある。だからバスが乗客を道路のど真ん中に降ろしたり、車がトラックを追い越すときに助手席に座っている人間がドライバーにタイミングを指示したりとなかなか愉快な光景が楽しめるぞ。

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