ニュース通信社ダウ・ジョーンズとアメリカの大手テレビネットワークNBCが共同設立したニュース専門放送局『CNBC』より

アジアのインフラをめぐる投資競争、勝者は中国ではなく日本になりそうだ

Japan, not China, may be winning Asia's infrastructure investment contest - 2019/01/23

中国が進める現代版シルクロード経済圏構想『一帯一路』 - img via worldbank.org
中国がいわゆる『一帯一路』を通じた東南アジアのインフラ投資を開始するまでこの地域の開発投資は日本が中心になって行っていた。

現在はこの2つの大国がその経済・商業的影響力のために激しく競い合っているが、一部の専門家は「北京は "戦い" には勝つだろうが "戦争" で負けるかもしれない」と口にする。

すなわち日本は中国の投資の規模、その圧倒的な物量に対抗することはできないが、その評価と実際にその地域にもたらす影響の観点から優位に立つということだ。



新興アジアにおける日本の投機的事業は、1990年代に日本政府がインフラ・コネクティビティ(※)の青写真を引くずっと前の1970年代後半から多国籍企業を通して行われてきた歴史があり、それらは先進国による途上国へのインフラ支援の成功例としてG-7やOECDから "質の高いインフラストラクチャ" との評価を得てきた。

そしてそれらのプロジェクトは発展途上地域における全体的な物流を改善してきたことに加えて高い安全性、環境安全性、信頼性を誇ってきた。
インフラ・コネクティビティ:
コネクティビティとは連結性/相互接続性の意味。

この記事の場合は、優れたインフラは効率的で費用対効果の高い "人" や "モノ" の移動を実現し、地域間のアクセスの向上は国内および国家間の地域間格差をも減少させるという考えから、インフラ整備を通じたコネクティビティの向上を目指してきたといった意味。




例えば日本の輸出信用機関である国際協力銀行はベトナムに対し行ってきた円借款による国道・港湾のネットワーク整備により同国の運輸セクターの効率は高まり、農村世帯の収入は増え、貧困レベルは下がったとしている。

一方で中国の習近平国家主席が掲げる『一帯一路』構想を通じたインフラ整備の一部も "質の高いインフラストラクチャ" との評価を得ているがそれらは その事業にまつわる様々な懸念によって覆い隠されてしまっている、そして同構想は中国の権力を世界に広めるためのプラットフォームと長い間考えられてきた

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米ワシントンDCにある超党派のシンクタンク戦略国際問題研究所で「Reconnecting Asia Project」のディレクターを務めるジョナサン・ヒルマン(Jonathan Hillman)氏は2018年の報告書『Asia’s Infrastructure Contest - Quantity vs. Quality(アジアのインフラ競争 - (量VS質)』で以下のようにその問題を指摘している。

一帯一路構想の下で展開される投資はその意欲的なレベルに反し、新たなインフラストラクチャプロジェクトが実際にもたらす影響についてほとんど何も語っていない

「その投資がそれを最も必要としている人々に役立つのか? そもそもそれは実行可能なプロジェクトなのか、本当に必要とされているのか、無用の産物になる可能性はないのか? その環境の影響は? 例えば気候変動の助けとなるのか、それとも悪化させるものとなるのか? それは価値を創造するのか破壊するのか?」

「IMF(国際通貨基金)の専務理事クリスティーヌ・ラガルドが先週指摘したように、"一帯一路構想の課題は同構想が本当に必要な場所にのみ展開されることを保証すること" だ。」
日本の企業や政府関連機関によって建設された鉄道や通信ネットワーク、また農業開発支援は彼らが地域の利害関係者に提供する技術研修や教育で特に評価されていると専門家らは評している。

それは日本と支援を受ける国との間で友好を培うのに大いに役立つものだ。

また昨年11月には安倍政権が東南アジア諸国連合の各国との首脳会議で、ASEANが力を注ぐ環境配慮型都市(スマートシティー)開発への協力の一環として東南アジアでものづくりやデジタル産業などに携わる技術者や研究者、経営者を5年間で8万人規模育成する方針を表明している。

それとは対照的に一帯一路構想の参加者はしばしば地元の企業の関与がないことに不満を漏らす - 中国主導のインフラ支援は地元企業を関与させず中国から大量の資材や労働力を輸入する、それを非難されているのだ。
さらに一帯一路構想プロジェクトには汚職への懸念も付きまとっている。

例えば今月初め、習近平国家主席は即座に否定したが、ウォールストリートジャーナルは中国当局がマレーシアのインフラプロジェクトのコストを増加させることに同意したと伝えた。

「一帯一路」協力見返りに1MDB救済、マレーシアに中国提案 米紙 - AFP http://www.afpbb.com/articles/-/3205684 - 2019年1月9日
マレーシアの政府系ファンド「1MDB」に絡む巨額資金流用事件をめぐり中国当局が2016年、マレーシア側に中国の広域経済圏構想「一帯一路」への協力と引き換えにファンドの救済を申し出た上、不正流用疑惑への外国当局の捜査に対して影響力を行使することを提案したと、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。


解説:
1MDBはマレーシアのナジブ・ラザック前首相が2009年に設立した経済開発企業体。

乱脈経営から2014年末時点で約1兆4000億円もの負債を抱えていたが、2015年に1MDBからナジブ・ラザク前首相の個人口座へおよそ7億ドルが振り込まれた事を示す公文書記録をウォール・ストリート・ジャーナル報じたことをきっかけに1MDB関係者が35億ドル以上の資金を不正流用したことが発覚する。

2016年に中国当局はこの1MDBの救済を提案、その見返りとしてマレーシア側は一帯一路に基づく巨額インフラ事業の権益をオファーしたという。

昨年5月の総選挙で前首相率いる長期連立政権は敗北、マハティール新首相は中国とのインフラ事業を精査するとし中国企業が受託した200億ドル相当のプロジェクトを一時停止している。




この点に関しては中国は日本から学ぶことができるだろうとヒルマン氏はHillmanは今週の戦略国際問題研究所の報告の中で述べている。

「1986年に20年間にわたって権力を握ってきたフィリピンのフェルディナンド・マルコス元大統領がエドゥサ革命によって打倒された時に腐敗の実態が明らかになったが、そこには数十社の日本企業が関わっていたことが判明した。(マルコス疑惑:円借款事業に関連し契約執行に当たった日本の受注企業からフィリピン側に手数料、リベートが支払われていたとの疑惑)」

「しかしこの不名誉が日本の政府開発援助の改革を促し、透明性は高められ、より開かれた競争が行われるようになった」
また日本の開発金融、開発事業に対する融資の長年の実績から日本の融資はより信頼できると広く考えられている。

2018年に発表された日本の独立行政法人『アジア経済研究所』の論文は、中国のプロジェクトは国に支援されているのに対し、日本が主導するプロジェクトの多くは三菱やトヨタ、任天堂や三井住友フィナンシャルグループなどの民間セクターからの支援を受けているためより弾性があるとしている。



一方で中国は請負業者が選ばれた後でしかプロジェクトを公開せず、さらにローン条件を公表することはめったになく、その履行状況も遅れが目立っており、それらの事実は一帯一路への信頼性を損ねることにしかならないとヒルマン氏は述べている。

中国の融資条件に対する懸念はここ数カ月間に起きた契約の中止および再交渉という形になって表れている。
2019年1月17日のCNBCの記事の要約 https://www.cnbc.com/2019/01/18/countries-are-reducing-belt-and-road-investments-over-financing-fears.html
ここ数カ月の間にパキスタンやマレーシア、ミャンマー、バングラデシュ、西アフリカのシエラレオネなどの発展途上国は以前に取り交わされた一帯一路を通じたインフラ支援の約束/言質をそのプロジェクトコストの高さや自国の国債および経済への影響への懸念から取り下げた。

これらの政府の多くが、2017年7月より99年間にわたりその戦略的港湾を中国国有企業に引き渡さなければならなくなったスリランカと同じ運命を辿ることを避けたいと考えている。




米ペンシルベニア州のシンクタンク『Foreign Policy Research Institute』は2018年の報告書の中で「中国は契約数で日本に勝っているかもしれないが、こと契約の履行においては日本の方が遥かに優れており、そうすることでその影響力を発揮してきた」と述べている。

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