BBC、ニューヨークタイムズ、ガーディアン、CNBCの記事より

日本から国外逃亡したカルロス・ゴーンの記者会見に対する海外メディアの反応まとめ



米国の日刊紙『ニューヨークタイムズ』

社説:カルロス・ゴーンは犠牲者か、悪人か?

Carlos Ghosn, Victim or Villain? - 2020/01/8

- ベイルートに現れた逃亡中の元自動車大手幹部は、彼に対する捏造された刑事事件を避けるために日本から逃れたと述べる -


今回の件で未解決となっているもの。それはゴーン氏が日本で告発された罪で有罪なのかどうか、刑務所に入れられるに値するかどうかという問題だ。

また99%の有罪判決率と、自白させるために容疑者に過度の圧力をかける日本の司法制度が司法の国際基準を満たしているかという問題もある。

ゴーン氏の場合、弁護士の立会無しに毎日何時間も尋問され、妻との接触をほぼ禁止され、長期間にわたって拘留されたことがこれに含まれる。

同様に不明確なのは、ゴーン氏に対する訴訟が "本当に訴訟に値するものだったのか" 、それは公正な評価に基づいているのか、あるいは彼が主張するように日本企業に "外国流" を持ち込もうとする外国人を倒すために日産が政府と共謀したかどうかである。



ゴーン氏が違法と合法のボーダーラインにある行為をしていたことは間違いない。

昨年9月、米証券取引委員会はゴーン氏と日産の元取締役であるグレッグ・ケリー氏が1億4000万ドル超の報酬を隠蔽し有価証券報告書に虚偽の記載をしたと指摘した。

ゴーン氏と日産は課徴金を支払うことで和解、またゴーン氏は課徴金に加え、米国の上場企業の役員や取締役に10年間就けない処分を受けた。

だが彼のレベルになるとその報酬パッケージ/給与体系はしばしば複雑であり、その処理が会計制度で認めらる範囲かどうかの解釈が企業と当局の間でズレるケースがしばしば発生する。

また日産自動車のトップで権力闘争があったこと、そして後に日産自動車の最高経営責任者になった西川廣人氏がゴーン氏を退任させたがっていたことも公然の秘密だ。



日本はゴーン氏を裁判に立たせるために送還を要求しているが彼がレバノン、フランス、ブラジルの市民権を持っていることを考えると、それはありそうもない。

そして "日本の裁判所" 自体に疑いの目が向けられていることを考えると、この件は "世論の裁判所" で争われた方が良いかもしれない。

ゴーン氏は、自らの潔白を証明したいと真剣に思うのであれば、先ほどの劇場型記者会見で行ったものよりもはるかに説得力のある話を提供する必要があるだろう。

そして日本は、その司法制度に抜本的な改革が本当に必要とされていないのかを自らに問わなければならないだろう。

スポンサードリンク

英国の公共放送局『BBC』

カルロス・ゴーン「逃げる決心は私の人生で一番大変なものだった」

Ghosn: Decision to flee was hardest of my life - 8 January 2020

- BBCの国際ビジネスニュース担当 Theo Leggettによる分析 -


It was a bravura performance.
(それは華麗なパフォーマンスだった)

ゴーン氏はもはや自動車業界のスターではない。だが彼に対する容疑の真偽はともかく、彼は未だにその場の空気を支配する術を熟知している。



彼は日本の司法制度について基本的人権に反すると激しく批判した。

彼は『悪意に満ちた恥ずべき者たち』が自分を陥れようとしたとこれを糾弾した。

彼は日本の検察が彼を起訴する根拠とした主張に反論するために詳細な資料による弁護を行い、さらに日産とルノーの現在の経営が以下に誤っているかにまで言及した。



我々はようやく彼の主張をまともに聞きそれに対する詳細な調査が行えるようになった、そして日産と日本政府の両方は間違いなく反論を開始するだろう。

ゴーン氏は劇的な逃亡もあいまって、この問題において見事に主導権を握ったのは間違いない。
英国の日刊紙『ガーディアン』

カルロス・ゴーンが不正告訴の企てに無実を主張 - ガーディアン・ビジネスによる実況

Carlos Ghosn insists he is innocent over fraud charge 'plot' – business live - 2020/01/8



カルロス・ゴーンについて我々が知り得たもの、知り得なかったもの

カルロス・ゴーンが世界のメディアの前に立った。待ち望まれたそれは記者会見というよりも法廷のようだった。

だがこの法廷は、彼が日本で避けた法廷とは異なり、被告になぜ彼が無実であるかを説明する自由を与えた。

ゴーン氏は自分の弁護に1時間を費やす一方で、自身の逃亡の犯罪性に関しては言及を避けた。

では我々は今回何を知り得たのか?



1)ゴーン氏は日産の幹部と日本政府内の勢力が彼を引きずり下ろすために陰謀を企てたと非難  

彼は元CEOの西川廣人氏、内部告発者のハリ・ナダ専務執行役員、社外取締役の豊田正和氏の名前を挙げこう述べた。

「私の想像を絶する試練は一部の『悪意に満ちた恥ずべき者たち』によるものだ」

ゴーン氏は日本政府の関与者については言及を避けた。



2)日本の司法制度に焦点が当てられた

ゴーン氏は自白の強要が慣習的に行われている日本の司法制度を批判した、これは納得のできる指摘だ。

彼は苦悶の表情を浮かべながらこのように語った:

「私は自分の仕事や家族や友人から残酷に引き離された」

「私は弁護士の立会無しに1日最大8時間尋問された」

「私は検察官から『自白しないとますます不利になる』と繰り返し言われた」



3)ゴーン氏は自分が無実であることの証拠を持っていると主張

記者は1100万ドルの疑わしい経費の支払いとされるものを - 明らかに - 釈明するいくつかの文書を見せられた。

彼はまた西川元CEOによって署名された自宅用の家の購入を承認する文書も公開、ゴーン氏は自分の無実を証明するつもりだと述べた。

「私は自分がレバノンの虜になったとは思わない。同じ虜の身でも私は日本でそうなるよりレバノンでそうなる方を望む」

「私はレバノンに長く滞在する準備ができているが、汚名をすすぐために戦うつもりだ」
4)ゴーン氏は自身の日本との絆を完全に破壊にした

東京地検を猛烈に攻撃するのはまだしも、自身の逮捕を旧日本軍による1941年の真珠湾(Pearl Harbour)攻撃になぞらえる発言は明らかに悪手だ。

非常に挑発的で不快さを伴った発言だ。この発言は日本でさらなる反発を生む可能性がある。



英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』アジア担当特派員 - Louise Lucas
「私は何も察知していなかった。パールハーバーが起きることを予想できたか?」

カルロス・ゴーンが遠慮ゼロだ。



ガーディアン紙のビジネス担当記者 - Rob Davies
カルロス・ゴーンは...今、真珠湾攻撃について話している。

そして自身が全く気付くことなく逮捕された事実をそれをなぞらえている。

彼は間違いなく奇襲の引き合いにそれを出したのだろうが。

ワオ。これは...日本で大きな反発を生むに違いない。




5)レバノンは彼が期待したほど安全ではないかもしれない

レバノンと日本との間には国外に逃亡した犯罪容疑者の引き渡しに関する国際条約である犯罪人引渡し条約が結ばれていない。そのためレバノンへの逃亡はうまい策のように思われた。

しかしゴーン氏は過去にイスラエルに入国する違法行為をしておりレバノン内から同氏の訴追を求める声が上がっている。レバノンでは国民が敵対関係にあるイスラエルに入国することを禁止しており有罪になれば禁錮刑を受ける可能性がある。

また国際警察機関のインターポールは先週「レッド・ノーティス(赤手配書)」をレバノン当局に発しており、当局はイスラエル入国の件を含め聴取するためにゴーンを召喚予定だという。 レッド・ノーティス:その国で逮捕状が出ている被疑者などについて人物を特定し、発見したら手配元の国に引き渡す方向で協力するよう各国に要請する国際逮捕手配書



6)日本からの脱出方法は明かさず

ゴーン氏はどのようにして日本から脱出したか、大勢の人間が知りたがっていたのはこの点だがゴーン氏は一切語らず口を閉ざしたままだった。

スポンサードリンク

米国のニュース専門放送局『CNBC』

イェール大学のゾンネンフェルド氏、ゴーンの記者会見に対して:彼は日本に復讐しようとしている

Yale’s Sonnenfeld on Ghosn press conference: He’s trying to get revenge - 8 January 2020



ジェフ・ゾンネンフェルド(イェール大学マネジメントスクール副学部長):

ゴーンは会見に向けて急遽PRのトレーニングを行ったことは間違いないだろう。

自身の名誉回復のため、そして鬱積した不満をぶちまける形で復讐を行おうとした。

これまで釈明する機会がなかった、取締役会の承認なしに金を受け取とってはいない、など色々と述べていたがこれだけ時間をかけておきながらどうやって日本から逃亡したのかは説明せず、まるで議会の議事妨害でも見ているような印象だった。

感情的には理解できるが、効果的ではなかった。



ジョシュア・ドラテル(逃亡犯罪人の引き渡しを扱った経験を持つ米国の刑事弁護人):

レバノンに逃れたことで彼は安全を手にしたように一見すると見える。だがレバノンから出ることは危険を伴うだろう。

特に逃亡に関して後悔を示さなかったのはまずかった。彼は逃亡に正当な理由があったとしているが、他国は正当な理由があれば刑事被告人が国外逃亡をしてもいいなどという基準を作ることを歓迎していない。

また彼が市民権を持つフランスでも捜査が始まっている。現時点でレバノン国外に出るのは彼にとってかなり危険と言わざるを得ない。

今日の会見は彼の日本との問題の解決にほとんど寄与しない。自身の資産の大部分が日本にあるにもかかわらずこのようなことをするのはある意味、相手を攻撃するために自身の利益を犠牲にする焦土作戦のようなものだ。

彼は日本の司法の手が届かない場所にいる、交渉において有利な立場にある、だがそれを問題の解消に生かすという考えは彼から抜け落ちてしまっていたようだ。

むしろ日本側が譲歩する余地がさらに狭まったと言える。

スポンサードリンク