アメリカの雑誌『ニューヨーク・マガジン』のグルメ情報サイト『Grub Street』より

古代から伝わる氷を使った日本のデザート『かき氷』は今アメリカで最もホットなデザートだ

Kakigori Is an Ancient Frozen Japanese Specialty – Now It’s America’s Hottest Dessert, Too - March 15, 2018

『Bonsai Kakigori』iのストロベリー&クリームかき氷。
Photo: Konstantin Sergeyev : via grubstreet.com


冬も終わり始めているとはいえ陰鬱な天気が続いているニューヨーク、だがそんな中でもマンハッタンの創作和食のビアホールレストラン『ロブスター・クラブ』に並ぶテーブルの上にはスイーツのシェフであるステファニー・プリダ(Stephanie Prida)が生み出す氷の彫刻が高くそびえたっている。

Photo via Food Republic : instagrammernews.com
それはバニラペストリークリームとブラッディオレンジシロップで彩られ、砂糖漬けのブラッディオレンジの輪切りが乗せられた氷菓子だ。

Creamsicle (アイスクリームをアイスキャンデーでコーティングしたもの)を想像してみよう、もしそれを一流のパティシエが作ったらどうなるか想像してみよう、しかもそれは同時にアイスクリームのように濃厚でリッチであり、シャーベットのようにさわやかで、デイリークイーンのソフトクリームのように滑らかに口溶ける、これはまさにそんな感じの最高にエレガントなお菓子だ。

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そのデザートこそが『Kakigori(かき氷)』だ、これは氷を削ったもので作られる伝統的な日本の名物であり、近年アメリカの特に高級なレストランのデザートとしてに急速に人気になり、さらにその人気は高まり続けている

このかき氷はアメリカでは最近知られるようになってきたが母国日本では文字通り何世紀にも渡り人気を博してきた。その歴史は11世紀にまでさかのぼる、冬の間に凍結した池の氷を切り出しその塊を保存、夏になると日本のエリートクラスに届けられ彼らはそれを薄く削り出して甘いシロップを添えて味わったという。

19世紀には氷はより多くの人にとって調達しやすいものになり一般の人々もそれを試すことができるようになる、そして現在は電気による冷凍技術のおかげで暖かい季節にはこのかき氷は至る所で売られるようになった。



実際には氷を使ったデザートというのは世界中で一般的な物であるが、その中でもこのかき氷を際立たせているのはこの極めて薄くシートのように削り出される氷、豊富な種類の自家製シロップとトッピング、そしてそれらを層のように組み立てていくことだ。

氷を削った氷菓子はアジア各国にありますしそれらは全て美味しいです、ですが日本人はそれを別のレベルに引き上げました」と韓国系アメリカ人でありアメリカで最も有名なセレブシェフの一人であるデービッド・チャンは語る。

彼は韓国のかき氷であるパッピンスを食べて育った、これは雪のような食感の削り出された氷に小豆や果物やコンデンスミルクをトッピングしたものだ。だが彼はその馴染み深いパッピンスではなく日本のかき氷を彼の新しいロサンゼルスのレストラン『Majordomo』で提供することに決めた。

  「Kakigoriはより洗練されています。」とチェン氏は言う。「しかも他の氷菓子と比べ飽きずにたくさん食べれます。」

高い技術を持ったパティシエたちがこの日本のかき氷に魅了されるもう一つの側面は、それを適切に作るためにはスキルが必要であること、つまりは作り手の技量次第でその完成品の仕上がり具合が大きく変化するからだ。

日本ではかき氷はそれ自体が職人芸の塊なのだ。これはただ氷を薄く削り出したものを甘く味付けた程度のものではない、それぞれの作り手たちが何年何十年という歳月をかけてその氷の質感やトッピングの質などを完璧なものにしようと追及している、このデザートを生かすも殺すも彼らの腕次第なのだ。

このデザートを作る工程はすべての面において時間がかかる。日本の多くのお店では自然の泉から湧き出る天然の水で氷が作られる。さらにその氷は丁寧に、かき氷用に削り出すのに最も理想的な硬さになるよう凍らされる。そしてその特別な氷は特殊な手回しで氷を削り出す機械でスライスされる。また言うまでもなく、シロップとトッピングはすべてそれぞれの店で作られておりその素材も最高のものが選ばれる。



そしてそんな日本のかき氷に魅了されニューヨークにかき氷専門店『Bonsai Kakigori』まで作ってしまったのがこのテオ・フリードマンとガストン・ベチェラーノだ。彼らは日本への旅行中に、新鮮で高品質な素材を使い細心の注意を払って職人の手によって作られる、シンプルながらも奥の深い、味わい豊かでありながら軽い食べ心地のかき氷に感動したという。


『Bonsai Kakigori』で手で回して削り出すかき氷機を使っている様子
Photo: Konstantin Sergeyev : via grubstreet.com


『Bonsai Kakigori』のココナッツ・クランチかき氷
Photo: Konstantin Sergeyev : via grubstreet.com
また彼らが日本のあるかき氷専門店で並んでいたところ、職人らしき人が出てきたので話を聞こうと声をかけた。だが寿司職人の見習いが何年もの間米の扱いを学んだ末にようやく魚に触れることができるように、かき氷職人もまた長い年月をかけて修行する者なのだと知る。その職人らしき人物はこう言ったのだ、「私はまだかき氷を作ったことがありません、まだ水を氷らせることしかしたことがありません。」

その後二人は日本から特注のかき氷機を調達し試行錯誤を続け、ついには専門店を作り上げた。彼らもまた他の国の氷を削り出した氷菓子を試したが、やはり日本のかき氷が持つテクスチャーと素材へのこだわりは類を見ないと指摘する。


『Bonsai Kakigori』のかき氷
Photo via bonsaikakigori.com

かき氷には職人工芸的な要素があります

同じくニューヨークにあるかき氷を中心とした創作和菓子専門店『the Little One』を経営するエディ・チェンとオリビア・ルンはこう語る。

かき氷を構成する全ての要素をゼロから作り上げる必要があります、だからこそ挑戦しがいがあるのです。

『the Little One 』のかき氷のメニューは時期によって変わるが、最近のおすすめである "グレープフルーツかき氷" は甘くほろ苦いグレープフルーツを使ったシロップにハニーヨーグルト・パンナコッタ、新鮮なタラゴン、花の形に成形したグレープフルーツゼリー、グレープフルーツの果肉の表面をクレームブリュレのように焦がして硬いカラメルの層を作ったトッピングなどで構成されている。

オリビア・ルンは以前はニューヨークで大人気のペイストリーショップを経営するパティシエ、ドミニク・アンセルの下で働いていた。そしてこの店で出されるデザートはレイヤーのように幾重にも重なる風味、バランスの取れた構成、それぞれすべての構成要素が複雑さを持つ点などにおいてアンセルのスタイルの影響を強く受けていることが見て取れる。

そしてアンセルの作品の多くと同様に、ルンの作るかき氷はインスタ映えする鮮やかで明るい色で彩られている。だが両店の経営者たちはソーシャルメディアの "受け" を狙っているわけではないと主張する。

「かき氷は味のバランスとテクスチャのバランスが全てです。もちろんソーシャルメディアで取り上げてもらえることは嬉しいですが、私たちは自分たちの作るかき氷を "チーズバーガーピザ" などと同じように、ただ珍しかったり見栄えが良かったり面白かったりする料理と同列に扱われることを望んでいません。」



『the Little One 』のココナッツかき氷と抹茶かき氷

アメリカでかき氷を作っているシェフの多くは、当然のことだが日本で育ったわけではなく日本に旅行に行ってそれを発見し魅了された人たちだ。見ての通り、アメリカで展開されるかき氷は何年もの修行を経て生み出された職人芸でもなければ伝統的なかき氷でもない、だがそれらは "日本のかき氷" を "日本のかき氷" たらしめる基本原則とそれぞれのシェフたちのバックグラウンドによって作り出されている。

(日本らしいかき氷はニューヨークのCha-AnやCocoronなど伝統的な日本食レストランでも提供されている。)

『the Little One 』がドミニク・アンセルの精神を受け継いでいるように、『Bonsai Kakigori』のガストン・ベチェラーノは自身のルーツであるメキシコの 食文化、cajetaというメキシコのヤギ乳のカラメルやピーナッツの種子を発芽させたもの、それに海塩を使ったりしている。

またワシントンD.C.のラーメン店『Haikan』のシェフである日系アメリカ人シェフのフクヤマ・カツヤ氏は夏の間に、幼少時代を過ごしたハワイので大好きだった トリコロール(3色)のナポリタン・アイスクリームにインスパイアされたかき氷を提供している。このかき氷はバニラ、イチゴ、チョコレートのシロップがたっぷりと注がれた3つのセクションがあり、その下にアイスクリームが埋もれているというものだ。

同店でもこのかき氷はとても人気になっているのだが、かき氷自体は非常に労働集約的でもあり、話題になると同時に一気に何百ものレストランや屋台などで提供されるようになったThai rolled ice cream(タイ風ロールアイスクリーム)のようになるとは考えにくいとフクヤマ氏は考えている。



  「一人の職人によって作られる高級寿司店に行くようなものです。」と彼は言う。

「かき氷は一度に1つずつしか作ることができず、一層一層丁寧に構成する必要があります。かき氷のために30分待ったこともあります。」

だがそれでも、作り手からしてもそれだけの労力を費やさなければならず食べる側も長い時間待つことを強いられるが、最高のKakigori体験はデザートのデザートたる所以であるこの上ない満足感を与えてくれる。

フクヤマ氏は最後にこう言った。「例えば米国の北に位置するバーモント州やメイン州に行くことを想像してみてください。そしてそこに降り積もるふわふわの新雪にメープルシロップ上からかけてみるのを想像してみてください。」

「かき氷を食べるとはそのようなことです。シンプルでありながら美しいのがかき氷なのです。」

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“Mt.Odakesan Trekking(Okutama)” by Hajime NAKANO is licensed under CC BY 2.0