イリノイ州から発行されるキリスト教福音派の定期刊行物『クリスチャニティ・トゥディ』より

なぜ日本はクリスチャン迫害の歴史を世界に知らしめようとしているのか?

Why Japan Wants Its Past Persecution of Christians to Be World Renowned - MAY 29, 2018

“長崎 大浦天主堂” by lohasteru is licensed under CC BY 2.0
2018年5月、キリスト教徒の割合が国民の僅か1%という日本に存在する12の遺跡で構成されるキリスト教徒関連遺産に対しユネスコが登録を勧告、世界文化遺産に登録される見通しとなった。

日本の長崎/熊本両県にまたがるこれらの地域はキリスト教の信者らが徳川幕府(1630-1867)の時代にアジアの歴史の中で最も厳しい迫害と殉教を経験した場所だ。

リストに含まれる長崎の大聖堂、『大浦天主堂』は時の為政者の命により磔(はりつけ)にされた日本人17人とヨーロッパの司祭9人(日本二十六聖人)を記念して建てられた。

同じく長崎県の南島原市にある原城は過酷なキリシタン弾圧に耐えかねた農民らが一揆を起こした「島原の乱」で戦場になった(籠城した)場所であり、最終的に彼らは皆殺しにされ指導者(天草四郎)は斬首、彼らの信仰に対する禁制は強化される。

そしてその他の『潜伏キリシタン関連遺産』は日本のキリスト教徒らがそのような状況の中にありながらも数百年にわたり隠れて信仰を守り続けた場所だ。
これらの遺産は来月にもユネスコ世界遺産委員会に承認され、全世界に800以上、日本に14存在する文化遺産に加わる予定だ(6月30日に正式に承認される)。登録が勧告されたのは同地域の自治体がこれらの『潜伏キリシタン関連遺産』を推薦してから5年後の出来事であった。



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「日本政府が隠れキリシタンに関連する遺産を世界遺産に推薦したことはいくつかの理由から非常に重要な意味があったと言えます。」

クリスチャンでもありホワイトハウス文化担当顧問も務めた国際的に活躍するアメリカ生まれの日系アーティストであるマコト・フジムラ氏は我々『クリスチャニティ・トゥディ』にそう語った。彼は著書『沈黙と美』で17世紀の日本におけるキリスト教徒の迫害を扱った遠藤周作の小説『沈黙』を取り上げ "苦難の中の信仰" について論じている。

「第一にこれは日本における隠れキリシタンの歴史の重要性を認めるものであること、そして遠藤周作の『沈黙』が日本が自国の歴史について理解する上で非常に大きな貢献をしたことを示すものであることが挙げられます。」

「第二にこれはキリスト教の "resilience" 、回復力や復活力、耐障害性という文化的価値、つまりはどれほど長い迫害のもとでさえキリスト教にはそれを耐え抜く力があるという事実を強調するものであるということです。」
世界遺産リストに登録されるためにはいくつかの基準に合致していなくてはならない。そしてそれは国家の威信や観光名所となるような "人間の創造的才能を表す傑作" や "その文化において非常に大きな役割を果たしたもの" であることが多いが、ユネスコはそれら以外にも "文化的伝統を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)" も登録の対象としている。

キリスト教の文化的伝承、それはもちろんキリストの復活と贖罪の苦しみを中心としたものである。

Jesus in Golgotha by Theophanes the Cretan.jpg By Holy Monastery of Stavronikita, Public Domain, Link
人類の罪の代価に苦しみ、十字架にかけられて死に至り、復活するという "贖い" を成し遂げたキリストとその教えを使徒ペテロや伝道者パウロなどの弟子たちはユダヤ教徒やローマ帝国から迫害を受けながらもイエスこそが神の子でありその死は全人類を救済するための贖罪の死であったと各地に宣教した。

そのような "resilience" と "苦難" はこれらの日本の歴史的な教会に深く、痛烈に、そして悲劇的に刻み込まれている。



「私たちが世界遺産登録を目指しているのはこの場所が日本のキリスト教徒らの信仰が最大に盛り上がった場所であり、これらの建築物が本物の信仰と世界で最も美しい芸術性を持ち合わせているからです。」

あるカトリック指導者はそう語る。



2016年にマーティン・スコセッシ監督により映画化もされた遠藤周作の小説『沈黙』は17世紀、江戸時代初期の隠れキリシタン弾圧の渦中に置かれたポルトガル人の司祭を中心としたほぼ知られていない物語を描いたものだ。その中で日本の為政者は信仰を棄てなければ拷問の末に極刑に処すと司祭らに迫る。同じくキリスト教を信仰していた人たちは火あぶりにされ、釜ゆでにされ、逆さ吊りにされ、斬首され、海岸に立てた十字架に磔され高潮による水責めを受けた。

そんな迫害の時代、隠れキリシタンや日本の教会史に対する追悼の意味で建てられたのが鎖国が解かれた後に建設された最初の教会の一つである『浦上天主堂』だ。その敷地内には二十六聖人の殉教を記念し潜伏キリシタンの祈りから明治時代の信仰の復活までの歴史を紹介する『キリシタン博物館』も今年4月に新たに開館された。

「長崎は当時『極東のローマ』と呼ばれていた。まるで本物のローマのように彼らは信仰を持つ者を虐げた、特にここ浦上ではローマ帝国が初期の教会に対して行ったキリスト教徒迫害以来の最大の弾圧が行われた。だがここ浦上こそが極東の地で最初に信仰の灯がともった場所であり、隠れることを余儀なくされてもその火は決して消えることはなかったのだ。」

日本在住のカトリック作家でありブロガーのShaun McAfee氏はそう述べている。

他の長崎の建築物と同様に、第二次世界大戦中の悪名高い原子爆弾によって長崎は廃墟と化し浦上天主堂も破壊され再建を必要とした。だがそれでもこの教会は日本のカトリック教徒らが巡礼の旅で訪れる地であり続けている。



ユネスコの世界遺産登録と『キリシタン博物館』のような新たな施設の建設を通じた "日本のキリスト教の悲惨な歴史を記念し追悼する動き" は、他の地域で起きている "過去の悲劇的な、あるいは恥ずべき時代の歴史を記憶しそこから学ぼうとする努力" と並行しており時代の流れに沿った動きと言える。

例えば我々が今年四月に記念施設がオープンするのに先立ち特集した "アメリカにおける白人による黒人へのリンチ殺人" がそうだ。南北戦争後の19世紀半ばから20世紀のはじめにかけてアメリカの南部では "白人が黒人を集団で暴行、首に縄をかけ木に吊るす" といった白人至上主義者によるアフリカ系アメリカ人へのリンチ/殺人が年中行事のように行われていた。

アメリカの黒人牧師/神学者のジェームズ・H・コーンは著書『十字架とリンチの木(The Cross and the Lynching Tree、2014年著)』で米国南部で "リンチの木" に吊るされた何千もの黒人を指し「キリスト教信仰の普遍的象徴である十字架とアメリカにおける黒人抑圧の典型的象徴であるリンチの木には明らかな類似性があり、彼らは繰り返し十字架につけられたイエスそのものであった」と語っている。

人権活動家で弁護士のブライアン・スティーブンソン氏が主宰するNGO「イコール・ジャスティス・イニシアティヴ」の弁護士らはそのようなリンチ事件を記録にとどめようと南部各地で文献を調べ1877年から1950年までの間に起きた4000件以上のリンチ事件をデータ化、それまであまり表立って語られることのなかったこの歴史を記憶し白人至上主義の犠牲者たちへ捧げる記念碑『The National Memorial for Peace and Justice(平和と正義のためのナショナル・メモリアル)』を今年オープンさせた。



また米国の歴史ある教会でも南部連合国の指導者をはじめとする奴隷所有者、その様な行為を是と考える現代の倫理では許容することのできない思想を持った人々と結びついてきた負の歴史とどう向き合うか といった議論が始まっている。

我々『クリスチャニティー・トゥデイ』は昨年この件について特集した記事の中でこう記した。



- 南北戦争で奴隷制存続を訴えた南軍関連の記念碑や銅像を撤去する動きが全米で加速していることに不満を持った極右集団がデモを起こしその反対派との間で大規模な衝突が起きた。

(トランプ大統領が撤去されていく記念碑に対し「われわれの偉大な国の歴史と文化が引き裂かれていくのを目にするのは悲しい」と言ったように) そのような歴史を持つ建築物をある者は "世に誇る遺産" と捉え、またある者は "過去の罪の告白" と捉える。

ドイツ中部のヴィッテンベルクに建つ「町の教会」でその正面に立つマルティン・ルターと関連した反ユダヤ主義を反映した700年の歴史を持つ彫像を撤去すべきかという議論が起きた時、ドイツのラビ(ユダヤ教の宗教指導者)らが反対したのは後者の立場からだ。そこは宗教革命の中心人物であるマルティン・ルターが定期的に説教を行い、カタリナ・ルターと結婚し、彼らの6人の子供に洗礼を施した場所であり、彼は反ユダヤ主義者だった。



アメリカン・ボード、北米最初の海外伝道組織の設立に大きな影響を与えた1806年のマサチューセッツ州のウィリアムズ大学の学生らによる "アジアの人々に対するキリスト教布教による精神的な幸福の実現" を話し合った会議を記念する『ヘイスタック記念碑』についても問い直す動きが出ている。

アメリカン・ボードは数千もの宣教師をアジアに送り込み現地人に布教に努めたが、同大学は現在の状況にあてはめた場合、そのような行為が『文化帝国主義』と見なされるのではないかと懸念しているのだ。 -




今回世界遺産に登録される運びとなった日本の『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』、キリスト教徒迫害の遺産は信仰のために苦しんだ人々の信心、強さ、そして決意を究極的に表すものだ。

「日本のキリスト教徒は明らかに隠れながらもその信仰を長い間保ち続けました、キリスト教に対する弾圧があったにもかかわらずそれが続いたのは日本の宗教に対する寛容な風土によるところが大きいのだと思います。」

日本の歴史家でユネスコの世界遺産登録の推薦を検討する政府会議で議長を務めた服部英雄 氏はそのように語る。

「政治権力は人間の心を完全に支配することはできない、それはこれらキリスト教関連遺跡群から我々が学んだ教訓です。」

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海外の反応

twitter.com, reddit.comのコメント欄より: ソース , ソース


Silvester Kasuku 新たな世界遺産登録おめでとう日本。

J-lit Nitwit Good news!!

God-before-anime カトリックがキリスト教の全てを代表するわけではないけどね。でもこれが忘れてはならない歴史の一部なのは確かだし、あらゆる国で迫害があろうとも神の教えが生き残り続けていることの証だ。

Being Kansai これらの遺跡群は既に有名だけどユネスコの世界遺産という地位を得ることでより多くの訪問者、そして保全のための資金を獲得できるはずだからやっぱりいいことだよね。それにしてもまた日本か、今回の登録で世界遺産の数の上位10カ国に日本が入ったんじゃないか?

Trayton 日本のキリスト教徒はマイノリティだけど、今回の事でキリスト教が同国の文化と歴史の中に重要なポジションを得た。それは素晴らしいことだと思う。

halcaliᵋ ユネスコの世界遺産にするのはこれらの遺跡群だけでいいのか? 日本全てを世界遺産にすべきだろ。

The Soul of Japan これは日本という国にとって恥ではなかろうか?

Cecitl Why?

The Soul of Japan 政治的迫害は世界的に行われていた、なぜ日本だけを槍玉に挙げる。

Michael Theeke ある意味自慢のような気もする。日本はアジアで唯一ヨーロッパが従属させたり意のままに操ったり植民地化したりしできなかった国だから。日本はそんなことを許しませんでしたよ的な。

Sweet cookies 日本だけに限らずキリスト教は世界中で迫害されてきた。

dontcensormy それはキリスト教徒が非キリスト教徒と非白人を千年以上にわたって迫害してきたからです。

LOL everyone 宗教とは迫害されるものであり、ほとんどの問題の根源である。

ShawninOP なぜ日本の為政者がキリスト教徒を迫害したか、その理由に一切言及していないのが非常に残念だ。 フィリピンはスペイン人によって実質奴隷化されたがその先兵がキリスト教の宣教師らだ。 当時の日本でもキリスト教のグループのいくつかは政治に介入し幕府の支配を弱体化しようとしていた。

Lowcust 神社を燃やしたり無理やりそれまで信仰してきた宗教を捨てさせ改宗させたりとかもあった。キリスト教が持つ美しい伝統だね。

Rory Downey 素晴らしいことだ。あまりにも多くの観光客が長崎を無視している。そこは鎖国時代の日本で唯一西洋に開かれていた貿易の窓口であり、日本のキリスト教の中心地であり、原爆を落とされた場所だ。豊かな変容の歴史を誇る街だ。

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