アメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネットワーク『ナショナル・パブリック・ラジオ』より

ジャパンタイムズ紙、"慰安婦" と "強制労働" を再定義、波紋を呼ぶ

'Japan Times' Newspaper Redefines 'Comfort Women' And 'Forced Labor' - 2018/11/30

金曜、ジャパンタイムズ(The Japan Times:日本の英字新聞及びそれを発行する新聞社で現存の新聞社としては日本最古の英字新聞社)は 第二次世界大戦の前/最中に "性奴隷として使われていた女性" や "日本企業に過酷な労働を強制された人々" の定義を変えたと発表した。



この動きに、日本の戦時史を改ざんするプロパガンダを広めようとする安倍晋三首相の保守的な政治的目標を採用した、と同新聞社を非難する声が各地であがった。

今後はジャパンタイムズにおいては1910年から1945年にかけて日本の鉱山や工場で徴用された韓国人、中国人、アメリカ人捕虜、その他あらゆる人々を表現する用語/言い回しは『forced labour:強制労働』から『wartime labourers:戦時労働者』に置き換えられる。

同紙は編集者の注釈として以下のように述べている。



" これまで『forced labour:強制労働』という用語は第二次世界大戦の前/最中に雇用され日本企業のために働く労働者を指すために使用されてきたが、労働条件や労働者がどのように雇用されるに至ったかの方法が異なるため、今後はそのような人々を『wartime labourers:戦時労働者』と表現する "

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ジャパンタイムズは『comfort women: 慰安婦』の定義の改正についても同じロジックで説明している。これまで「第二次世界大戦の前/最中に日本軍に性行為を強いられた女性」とされていたものはこれより「その意思に反しそうすることを無理強いされた女性を含む、戦時中の売春宿で働き日本兵に性行為を提供した女性たち」となる。

編集者の注釈によるとこれらの変更の目的は「潜在的に誤解を招く可能性がある」用語を明確にするためとのことだ。


編集者注:

これまでジャパンタイムズは潜在的に誤解を招く可能性がある言い回しをしてきた。

『forced labour:強制労働』という用語は第二次世界大戦の前/最中に雇用され日本企業のために働く労働者を指すために使用されてきた。しかしながら労働条件や労働者がどのように雇用されるに至ったかの方法が異なるため、今後はそのような人々を『wartime labourers:戦時労働者』とする。

同様に、『comfort women: 慰安婦』は「第二次世界大戦の前/最中に日本軍に性行為を強いられた女性」としてきたが、慰安婦の経験は地域/戦況の変化ごとに異なっているため、本日より「その意思に反しそうすることを無理強いされた女性を含む、戦時中の売春宿で働き日本兵に性行為を提供した女性たち」とする。
アメリカ・ワシントンD.C.ののシンクタンク『Asia Policy Point』のミンディ・コトラー代表(※)はNPRに対し、ジャパンタイムズの動きに憤慨しており「非常に恐ろしく、様々な問題を生じさせる」と述べている。

「これは古典的な歴史否定の動きであり、世界に存在する政治的/イデオロギー的な目的から過去の悪行をなかったことにしようとする動きを助長するものである」

彼女が言うにはその典型的な歴史否定はまず別の表現を用い、言葉遊びにより本質から目を背けさせることだという。

「しかし日本が戦時に行った行為は生易しいものではなく、それを証明するに足るあまりにも多くの文書/記録が存在する」とコトラー氏は語った。
ミンディ・カトラー(Mindy Kotler):慰安婦問題などで、安倍政権の歴史認識をたびたび批判している、米非営利研究団体「アジア・ポリシー・ポイント」の所長

NewSphere: 『世界遺産:“強制労働は韓国人だけではない”米研究者、連合軍捕虜に言及』 より
強制的な労働/性労働を余儀なくされた数えきれない数の少女、女性、若い男の子などの枠組みを変更するという同新聞社の決定は、先月に起きた日本の大阪とその姉妹都市であるカリフォルニア州サンフランシスコの市長間の論争の直後の出来事だ。

サンフランシスコに建てられた慰安婦に敬意を表する像に関し大阪市長は姉妹都市間家の解消を宣言、「不確かで一方的な主張を歴史的事実として記した」とし「奴隷にされた女性の数と、拘束されている間に彼女らが受けた扱いは誇張されたものである」としていた。

歴史家によると、20万人もの女性が強制、あるいは騙されて最前線近くにある日本の軍用売春宿で働かされたという。

日本政府がこれら戦時中の残虐行為を認めるまでには数十年を要し、1993年になってようやく認めるに至る。

宮澤喜一首相は、日本帝国軍が1932年から1945年の間にアジア人女性らを兵士のための性奴隷として奉仕させたことを認め「心からの謝罪と反省」を申し出ていた。



ジャパンタイムズ紙の読者もこの新聞社の発表に怒りを覚えTwitterにその嫌悪感を表明している。

twitterユーザーのBritt Louise は同紙は政府の圧力に屈しニュースソースとして信頼に足るものではなくなったと述べている。





Twitterユーザーの@HarryHaruhi もまたこのように書いている。

「これはあんまりだ。毎朝、20年近く読んできたが購読をキャンセルしなければならない!」



マサチューセッツ州メドフォード市に本部を置くアメリカ合衆国の私立大学フレッチャー法律外交大学院の韓国学教授であるサング・ユン・リー教授はNPRに対し、 ジャパンタイムズの強制労働と慰安婦の説明には "日本政府の関与、あるいは日本政府が運営していた" 等の記述が省かれていることを指摘した。

その実態は "国家主導の軍属奴隷" であったにもかかわらず "日本政府の責任" に関する記述がないとリー教授は述べ、これはまた安倍首相が宣伝することに "執着" しているメッセージであると付け加えた。
2018/12/01時点でこの話題を扱っている他の主要メディアは英紙ガーディアンとその記事を丸ごと掲載している香港の英字新聞サウスチャイナ・モーニング・ポストのみ。

以下要約


英紙『ガーディアン』

慰安婦:日本の新聞が第二次世界大戦の用語の記述を変えたことに怒りの声

'Comfort women': anger as Japan paper alters description of WWII terms - 2018/11/30

- この動きは日本のメディアが右翼からの圧力を受け戦時史を書き直そうとしていることへの懸念を引き起こす -



この注釈は今週公開された韓国の最高裁が三菱重工に元強制労働者10人への補償を命じた判決に関する記事の末尾に書かれていた。

『all the news without fear or favour(すべてのニュ-スを恐れず、おもねることなく)』を社是としてきたジャパンタイムズ紙だがこの決定に同紙の記者や編集者も怒りと驚きの声を上げている。

「この変更に大勢が憤慨しています、その決定への過程において我々への相談など一切ありませんでした」

ジャパンタイムズの従業員は我々ガーディアンの取材にそう答えた。



今回のジャパンタイムズ紙の修正は右翼政治家および活動家による圧力に同国のメディアが屈し始めているとの懸念をより強めるものだ。

この動きは加速しており、2014年には日本のリベラル系新聞である朝日新聞が1980年代から90年代にかけて報じた慰安婦関連の記事に対し、それらの根拠としてきた吉田清治の「朝鮮で若い女性を慰安婦にするために自身が強制連行した」とする証言を偽証であったと認めている。

またそれから二か月後には保守系の読売新聞が英語版で "性奴隷" という用語をそれまで使用してきたことを謝罪、NHK英語版の編集者らは "性奴隷" という表現を禁止されるに至っている。

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“当社代表のインタビュー記事が今日の #ジャパンタイムズ に掲載された #japantimes” by マクダーミッド ジャパン is licensed under CC BY 2.0