アメリカのテクノロジー系雑誌『WIRED』のYoutubeチャンネルより

"Article 13(第13条)" とは何か? その解説

What is Article 13 and will it Kill Memes? WIRED Explains - 2019/03/25

EUがインターネット上の著作権の保護を強化する改革に乗り出している。

皆さんも聞いたことがあるだろう、それは "Article 13(第13条)" と呼ばれており、まさに今EU各国でその法律が発行されようとしている。

だがこの著作権法改正案が大きな物議をかもしている。

我々はオンラインで様々なコンテンツをシェアしているがその様相が一変すると一部の人々は声を上げている、また別の人々は小規模な企業がテック・ジャイアント(tech giant:技術系最大手企業、IT界の巨人)と競争するうえでさらに不利な立場に立たされることになると危惧している。

ではその "Article 13(第13条)" と呼ばれる著作権法改正案は一体どういった内容なのだろう?

"Article 13" の内容とその背景

"Article 13(第13条)" は実際には「Directive on copyright in the Digital Single Market(デジタル単一市場における著作権に関する指令)」と呼ばれる新たな、そして非常に広範に渡る著作権改革案のほんの一部にすぎない。

EUによるとこの指令が肝心要としているのは "ミュージシャンやジャーナリストのようなコンテンツを制作する人々" と "そのコンテンツをホストし共有するプラットフォーマー" との間でより公平な利益の分配が行われることを助けることとしている。

EUは今日に至るまで、Google NewsやYouTubeのような大規模なプラットフォーマーは他の人のクリエイティブコンテンツをホストすることで大金を稼いできたが実際にそれらのコンテンツを作った人々に十分な還元をしてこなかったと主張してきた。

そしてそのために考え出されたのが "Article 13(第13条)" だ。



欧州議会がこの第13条を含む著作権指令の改正案を承認した場合、EU各国はYoutubeやフェイスブックなどのプラットフォーマーに対し以下の内容を求める法律を発行することになる。

・プラットフォーマーが著作権のあるコンテンツをホストする場合、そのコンテンツの権利保有者からライセンスを取得しなければならない。

・プラットフォーマーがコンテンツのライセンスを取得できない場合、彼らはそのコンテンツが自社のプラットフォームでホストされることを "未然に" 防がなければならない。


一見すると当たり前のことが書かれているように思えるが、この第13条をめぐり大論争が起きている理由はその "責任の所在" に変化があったからだ。



例えばあなたがYouTubeチャンネルを持っていたとしよう。そしてあなたは映像を制作した出版社の許可なくとあるミュージックビデオをアップロードしたとする。

これは間違いなく合法ではないが、問題が起きた際にその責任を負うべき対象は誰になるだろう?

そもそもこのビデオをアップロードしたあなたに責任の所在があるのか、それともあなたがそのビデオをアップロードすることを許し不特定多数の人間に見られる状態にしたYouTubeにあるのか?

今回の第13条はその "責任の所在" を明確にプラットフォーマー側に求める内容になっている。

つまりYouTubeやフェイスブックやTwitterなどの大規模プラットフォーマーに対し、彼らがホストする "著作権を有するコンテンツの一切" に対して法的責任を負うように強制するのがこの第13条だ。



各プラットフォーマーは今後どちらかの対応を迫られることになる。

一つはコンテンツの権利保有者、例えばレコード会社などとライセンス契約することだ。そうすることでそのプラットフォームはそれらのコンテンツをホストし続けることができる。

YouTubeはすでにこれを行っている、このプラットフォームに多数のミュージックビデオがあるのはそのためだ。

そしてもう一つはコンテンツの権利保有者からライセンスを取得できなかった場合で、プラットフォーマーはあらゆる手段をもってそれらのコンテンツがホストされることを未然に防がなければならない。

"Article 13" の問題

この第13条めぐる論争は、著作権侵害コンテンツに対するより厳格な対応やコンテンツの適切な使用料を求める著作権を保有する団体や著作権を管理する団体と、現在行っている対応以上のことをしたくないプラットフォーマーとの対立のように思えるが事はそれよりも複雑だ。

この第13条を批判する人々は多岐にわたる。

ウィキメディア財団やソフトウェア開発のプラットフォームであるGitHub、マサチューセッツ工科大学のデジタル技術所であるMITメディアラボ、ネットにおける言論の自由保護を目的とする米非営利団体である電子フロンティア財団、今日のインターネットの基礎を築いた人物として知られている英国のコンピューター技術者ティム・バーナーズ・リーを始めとする有識者など様々だ。

では何がそれほどまでに問題なのだろうか?



この第13条は各プラットフォーマーにライセンスを取得できていない全てのコンテンツがホストされることを "未然に" 防ぐよう求めているがその具体的な方法に言及していない。

そしてそれを可能にする方法は「アップロードフィルター」だけだ。そしてこれこそが第13条に対し人々が批判の声を上げている理由である。

アップロードフィルターとはユーザーがアップロードした全ての公開前のコンテンツを検査しそれが著作権を有するコンテンツかを判断する仕組みだ。プラットフォームが扱うことを許されていないコンテンツは自動的に弾かれ公開されないというわけだ。

しかし問題は、正確なアップロードフィルターを構築することが現代の技術ではほぼ不可能な点にある。

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今のコンテンツ認識技術では著作権を有するコンテンツかどうかを正確に判断することはできず、問題のないコンテンツであってもフィルタリングされてしまう事になりかねない。

第13条は著作権で保護されたコンテンツであってもオンラインでシェアすることを許す例外を設けている、例えば風刺画やパロディ、インターネット・ミーム(流行りの画像ネタ)やGIF画像などだ。

しかしアップロードフィルターが許可された引用や二次創作物と許可されていないものを見分けることができるかは不明だ。



実際YouTubeにはContent IDというアップロードされたすべての動画を著作権所有者が提出したファイルのデータベースと照合し、一致した場合は著作権者が決めた対応を取るというシステムがすでにあるが、常に正しく機能したかというとそんなことはなかった。

例えば2016年にはハーバード大学の法律学教授William Fisher氏の “The Subject Matter of Copyright: Music.(著作権の要旨:音楽)” と題された授業の動画にContent IDが反応しこれが削除されるというケースがあった。

動画の中でジミ・ヘンドリックスの曲が数十秒流されたことをContent IDが検知した結果なのだがこれは教育目的の動画であるため著作権違反に当たらない。

また鳥のさえずりや猫がゴロゴロと喉鳴らす動画に著作権で保護された音楽が含まれていると誤って検知したケースもあった。

Yutube以外のアップロードフィルターでも問題は起きている。2018年12月にtumblrがポルノの禁止を宣言した後に、削除の対象にはしないとしていたトップレスでデモを行う女性の画像がブロックされたことがあった。



TwitterやフェイスブックやYouTubeがこの著作権法改正案に対応するために新たなアップロードフィルターを設けることで合法的なコンテンツがアップロードできなくなるケースが大量に発生することを人々は危惧しているのだ。

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さらに問題はそれだけではない。EUは第13条がIT界の巨人に与える影響ばかりに注目しているが、それらよりも小規模なプラットフォームが悪影響を受ける危険性を見過ごしている。

第13条は次の3つの項目すべてに該当する場合にのみその企業を規制の対象から外すとしている。

・公開から3年未満
・年間売上高1000万ユーロ未満
・毎月のユニークユーザー数が500万人未満

これに該当するのはごく限られたプラットフォームであり、芸術家のためのインターネットコミュニティである『deviantART』や YouTubeコンテンツ製作者、ミュージシャン、ウェブコミック作者向けのクラウドファンディングプラットフォームである『Patreon』など多くのプラットフォームが第13条を受け入れなければならないのが実情だ。



そしてそれらは小規模であるが故に、著作権所有者と公正なライセンス契約を交渉する力がなく、アップロードフィルターを設置する費用を捻出することもできない可能性があると第13条を批判する人々は指摘する。その重すぎる負担で閉鎖を余儀なくされるプラットフォームが出かねない、それを彼らは恐れているのだ。

"Article 13" の今後

欧州議会は2年以上におよんだ議論と検討の末に2019年3月26日、この第13条を含む著作権法改正案を賛成多数で正式に承認した。

3月末あるいは4月中に開催される欧州理事会でもEU加盟国の過半数がこれを承認すれば、実際承認される可能性が極めて高いわけだが、 2020年にも施行されることになり2年以内に各加盟国で法制化される見通しだ。



最後に、YouTubeは第13条がEU諸国で法律化されればEU圏内の視聴者から動画をブロックせざるを得なくなると警告しサービスの存続すら危ぶまれるとまで言及したが、最終的にこの状況をプラスに変える可能性があることを指摘しておこう。

各プラットフォームが著作権で保護されたコンテンツをチェックするためにコンテンツフィルターを導入しようと考えた場合、その多くがシステムを自社で開発するのではなく購入する事を検討するわけだが、一体どこから購入するだろうか?

もちろんグーグルだ。

このインターネットの巨人はすでに世界中で9000以上の放送局、レコードレーベル、そして映画スタジオで使用されている著作権認識システムの構築に1億ドル以上を費やしてきた。

今回のEUの著作権法改正案はシリコンバレーをターゲットにしたものだが、負けたように見えてその実本当は勝利しているのかもしれない。

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海外の反応

reddit.comのコメント欄より: ソース


Timely· Youtubeのユーザーが動画をアップしそれに著作権で問題があった場合はYoutubeがその責任を負う、このEUの著作権法改正案のポイントはこれだ。

pzpzpz24 この責任の所在がホスティング側に移るってのは実際とんでもない話だ、いったいどれだけの訴訟が起きるか想像もつかない。しかも完ぺきなアップロードフィルターなど存在しないのだから財務上のリスクを考えた場合EU圏にサービスを提供しないという選択肢しか残らないではないか...

GargamelLeNoir Googleは昨年11月に第13条を順守するのは技術的にほぼ不可能だと 公式ブログで説明している。

Googleのコンテンツ認識技術でさえ著作権を有するコンテンツを正確に判断することはできないのにそれを求めるとか無茶過ぎる...

7734128 しかもそれは世界で最も評価されているインターネット企業が10年以上かけて作った文字通り世界最高のフィルターだ。Googleができないことがどうして他の企業にできる?

Z0MBIE2 このArticle 13がどうかしている理由がまさにそれだ、EUの要求に対応できるフィルターがそもそもこの世に存在しない。

Bombatomba 欧州委員会の公式サイトのQ&Aのページにはこの指令はアップロードフィルターをコンテンツプラットフォームに強制するものではないとしている。じゃあ他にどんな方法を欧州委員会は想定しているというのか、本気で知りたいわ。

h3cate 人海戦術しかあるめぇ。

Kaves67 考えているわけがない。この要求がどれほど無茶なのかを理解していればそもそもこんな著作権法改正案を通したりしない。

sydofbee この改正案に賛同したドイツのCDU(ドイツキリスト教民主同盟)の年寄議員みたいな連中はいったいどれほどのデータが毎分アップロードされているかを理解していない。

Muck777 Youtubeなんて毎分400時間分以上の動画が投稿されているしな。

invalidfate 毎分400時間を人間の手で検閲することは不可能だ、かといってコンテンツ認識技術は完ぺきとは程遠い。残された手段はEU圏のユーザーの締め出しだよな。

metron "第13条は著作権で保護されたコンテンツであってもオンラインでシェアすることを許す例外を設けている、例えば風刺画やパロディ、インターネット・ミーム(流行りの画像ネタ)やGIF画像などだ"

パロディを理解するAIを開発しろとは無茶をおっしゃる。

OwnerOfABouncyBall ヨーロッパの報道機関の勝利だな。連中は特にここ数日の間、第11条と第13条を称賛する記事を一斉に掲載しているよ。私はメディアに真剣に失望している、公正な議論などどこにもない。 第11条:グーグルニュースなどが表示するニュース記事へのリンクとスニペット(記事の断片)に対してメディア側が使用料を要求することを可能とするもので「リンク税」の名で知られる

KalNymeri [このコメントはプラットフォーム側の人間による確認が完了するまで表示されません]

Hailtothedogebby あれ? もしかしてブレグジットって英断だったのでは?

acurlyninja ちょっと前までブレグジットに反対していたけど、気が変わった。

SlamUnited 経済的には悲惨なことになりそうだけどこの手のEUの暴挙から解放されるわけで、手に入れるために払う犠牲としては割と納得のいく感じだったりする。

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