イギリスの大手一般新聞『ガーディアン』より

焼き鱈、みそ汁、チンゲン菜:packed lunch (詰められたランチ) とは違う日本の健康的な学校給食

Baked cod, miso and bok choy: unpacking Japan's healthy school lunches -1 Mar 2019

packed lunch (詰められたランチ)は日本語で言うところのお弁当だがイギリスのそれはサンドイッチにフルーツ、野菜スティック、スナック菓子、チョコバーなどの簡単なものが定番


こちらは典型的なイギリスのお弁当、2016年の dailymail.co.ukの記事 より引用。

食パンにスライスチーズを挟んだサンドイッチ、カプリソーネ(ドイツの飲料メーカーであるヴィルド社が発売している果実飲料)、Hula Hoops(ポテトのスナック菓子)、Mr Kipling Angel Slices(上半分がアイシングでコーティングされ中にバニラクリームの入ったスポンジケーキのお菓子)、バナナ。


- 日本の国営 "Kyushoku(給食)" システムは美味しさ、新鮮な食材、高い栄養価を低コストで実現している -



鯖の味噌煮、大根と梅の酸味のあるあっさりとしたサラダ、薄くスライスされたピクルスに新鮮な果物の盛り合わせ。

その料理のリストはまるで健康志向のカフェで見るメニューのようだが実際のところそれらは "レストラン" ではなくは日本の中部にある高南小学校の教室で出されたものだ。

そしてそこの生徒が唯一 "必要" とするものは野菜を食べるためのちょっとした勇気だけだ。



我々ガーディアンは今月、太平洋に面する袋井(静岡県袋井市)にある学校に取材に訪れた。昼時を迎えた教室は一瞬にしてカフェテリアへと変わり、「頂きます」という “let’s eat” を丁寧にした日本語の言葉が教室に反響する。

その日のメニューは焼きタラ、スイートコーンとチンゲン菜のソテー、ミネストローネスープ、小さな紙パックの牛乳、そして金曜日のお楽しみである "それほど健康的とは言えない" 組み合わせの精白パン(※)と大豆ベースのチョコレートクリームだ(箸で均等に塗るのは中々に難しそうである)。

その量は控えめだが11歳の子供たちが家に帰るまでお腹を空すかせない程度には十分な量になっている。そしてその総カロリー数も控えめだ。一食当たり667kcalである。
精白パン(white bread)=全粒粉などではなく精製した小麦粉で作るパン=食パン

毎日何か違うもの

現在の日本の給食システムは戦後間もない頃に児童の欠食対策として導入された。以来70年以上にわたって続いてきたこのプログラムは日本の世界でもトップクラスの平均寿命やOECD諸国の中で最も低い成人及び子供の肥満率に貢献してきたと言われている。

日本の小学校では美味しく、新鮮な食材を使い、幼稚園から中学校までの学童向けの政府が運営するプログラムで規定されているレベルの鉄分、カルシウム、繊維などの栄養を含みつつバリエーション豊かな昼食が生徒のために作られている。

そんな中で自分たちの地域の小学校の給食は国内で最も健康的であると、世界でも最も健康的な食事の一つであると宣伝しているのが今回我々が訪れた高南小学校のある袋井市だ。

それは口だけではなく実際この袋井市は昨年、地元の生産者の協力の下で地域の小学生に健康的な食習慣を促進したとしてその取り組みを評価されWHO(世界保健機関)からベスト・プラクティス賞を受賞している




袋井市ホームページより - 3月1日の給食(中部学校給食センターB)
ごもくちらし、牛乳,、さばのあまざけやき、すみそあえ、てまりふのすましじる、ひなあられ
photo via city.fukuroi.shizuoka.jp




袋井市ホームページより - 3月1日の給食(浅羽学校給食センター)
五目ちらしずし、牛乳、たらの大根おろしがけ、菜の花入りごまあえ、ゆばのすまし汁、 ひなあられ
photo via city.fukuroi.shizuoka.jp




袋井市ホームページより - 3月1日の給食(袋井学校給食センター)
ソフトめん、ミートソース、牛乳、ツナ入りオムレツ、タアサイときのこのソテー、ひなあられ
photo via city.fukuroi.shizuoka.jp
市内の学校給食センターでは毎日1万食以上の昼食が用意され地域の幼稚園と小中学校に送られる。給食は主に日本食を中心としたものだが中華料理や韓国料理、ヨーロッパ料理などからインスピレーションを得た昼食も作られており、給食費の半分は地方自治体が負担し子供たちの親は一食当たり250円(1.70ポンド)を支払う形になっている。

「私たちは給食のメニューに毎日何かしらの変化があるように工夫して毎月のメニュー計画を立てています」

袋井市教育委員会の学校給食課(おいしい給食課)主任の石塚浩司 氏はそう語る。

「そして月単位でもその季節に何が旬であるかでメニューを変えています」



2005年に政府は学校給食プログラムの役割をさらに一歩進め、給食に何が使われそれらの食材はどこで作られたのかなどを子供たちに教育するよう各学区の教育委員会に求めた(※食育基本法)。

高南小学校の子供たちが昼食を食べ始めると栄養教諭のコバヤシ・ミホコ氏が彼らが今食べているチンゲン菜がどこで育ったのか、そして(明らかに一部の子供たちが食べたくなさそうにしていたが)どうして最後までちゃんと食べなければいけないのかを説明し始めた。

「皆さんが食べているこの給食にはたくさんの人々が関わっていたことを覚えておいてください」と彼女は子供たちに言い聞かせる。

「特に嫌いな野菜に出くわしたときにそれを思い出してください」



選べないという喜び

袋井市では地元の農家が毎年4トンもの葉菜を地域の学校給食のために届けているという。

「新鮮さは絶対に不可欠です」と高南小学校の子供たちが食べていた給食に使われていたチンゲン菜を生産するスズキ・トシユキ氏は語る。

「通常農家が生産した野菜を商業的に販売する場合は流通システムを通さなければいけないのですが我々は学校に直接販売しています、そのため子供たちが食べている野菜はどこよりも新鮮です」



鈴木さんを始めとするこの地域の農家は市の教育委員会と密接に協力し、2012年には僅か13%だった "学校給食における地元で栽培された野菜の割合" を2018年には約32%まで押し上げた。

「一般的に子供たちは彼らが10歳になるまでにその後の長期的な食習慣を習得するとされています、我々が学校給食を重要視する理由がそれです」と学校給食課の石塚氏は語る。

 「子供たちの定期健康診断の結果は概して良好であり、学校給食はそれと関係があると私たちは考えています」



日本の教育行政によると給食プログラムは現在の体制が構築されて以来ほぼすべての小学校、そして約80%の中学校で行われてきたという。

東京大学 大学院医学系研究科の特別研究員で健康政策スペシャリストである宮脇敦士 氏は、メニューから選択肢を排除しお弁当を禁止していることこそがこの給食プログラムの "最も注目すべき" 特徴であると述べる。

「アメリカやイギリスでよく見られるカフェテリアスタイルの学校給食とは異なり、日本の学校給食は各学校のすべての子供たちに週5日間均一なメニューを提供しています」

「つまり子供たちは給食のメニューに関して選択の余地がなく、また学校給食を食べるのかそれとも家から持ってきたお弁当を食べるのかといった選択の余地もないということです」

「ですがそれは栄養摂取におけるバランスの悪さを避けるのに役立ちます。そして選択肢がないことは、弁当では明らかになるかもしれない子供の社会的/経済的背景における格差を隠すのにも役立ちます」



我々が取材のために参加した5年3組の昼休みが終わった。そこには一つの野菜も残されずタラの一かけらも残っていなかった。我々の取材をサポートしてくれたスタッフによると子供たちは出された食べ物の95%を食べるという。

モニターとして子供たちと給食を食べた我々のスタッフが空になった皿を台車に乗せて学校のキッチンに運ぶその後ろで、子供たちはその日の食育の最後の課題をするためにそろって教室を出て行った。もちろん歯磨きだ。
静岡県袋井市立高南小学校HPより http://bansyu-school.jp/fukuroi-kounan-e/index.php?page_id=0

2019/02/15 - 海外プレスツアー

海外の報道記者等13名が袋井市を取材に訪れ、その一環として本校にも来校されました。学校給食センターから運ばれた給食を各教室に配膳する様子と5年生の外国語活動の授業の様子を参観されました。給食時は、記者の皆さんも5年生3クラスに分かれ、子どもたちと一緒に給食を食べました。片付けでは、牛乳パックの開け方を記者の方が楽しく子どもたちに教わっている様子が印象的でした。

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海外の反応

theguardian.comのコメント欄より: ソース


Lee Cooper 英国で日本と同様のことを試みた場合どうなるか?

まず給食を請け負う企業を決めるために競争入札が行われるわけだが当然最も安い金額を提示した企業が落札する、そしてコスト重視のため食べ物の質は低くなり、最終的に使われていた肉が期限切れ/馬肉であることが判明し契約は取り消される。

資本主義万歳だね。

PopeGregoryTheNinth 馬肉でしかも期限切れである可能性もある。

ID6355227 イギリスじゃ子供から食の選択肢を奪おうものなら親たちが「子供たちを飢えさせるつもりか!」と怒りだすに決まってる。

mythology 子供の肥満が社会問題になっているイギリスにはこの日本の給食システムが必要なのかもしれない、だがそれは決してここでは機能しない。日本と同じアプローチをした場合おそらく子供たちは大反発し、暴れまわり、騒乱を引き起こすだろう。

昨日日本から帰国してきたばかりだから言える、日本の子供は概して行儀が良い。例えば就学前の子供を預かる保育園では保育士が8人もの子供を連れて、全員で手をつないで静かに地元の公園に歩いて向かうことができる。私が言っているのは3歳とかその辺の子供のことだ。ここイギリスで同じことができるとは全く思えない。

しかも日本では年長の小学生が年少の小学生の面倒を見ながら子供だけで集団登校をする。東京のど真ん中でだ。ロンドン中心部でそのようなものを見ることなど不可能だ。

chatteringmonkey 日本人は健康的な食生活を送っていると言われるけど子供のころからのこういった取り組みが自然にそうできるよう助けてくれるんだろうね、でもここでそれをしようと思ったらまず子供たち、そして何より親たちを説得しなければならないという高いハードルがある。

(豚の餌みたいな給食を出していたある学校がセレブシェフの助けを借りて健康的な給食に改革しようと試みたことがあったろ? ところが一部の子供はそんな給食を嫌がり、彼らの親がマクドナルドを学校の柵ごしに手渡すとかしてたのを覚えているかい?)

それとこれは政府や自治体の協力が不可欠だ。しかし我々の政府が給食改革のための費用を捻出してくれるかというと...

...この話は忘れてくれ。

RobINGITS 子供を第一に考えそれが実際に機能しているってのは素晴らしいことだ。

MattBucks 日本がこういった取り組みをできるのは子供の食に対する人々の意識が高いおかげだろう。だがイギリスでは上手くいかない、最初から反対する人が多すぎるだろうから。

Lauriacum この給食プログラムはヨーロッパではほぼ確実に問題となる。それは栄養バランスを取りつつ費用を安く抑えることが難しいからとかそんなんじゃない、単純に親の態度/考え方のためだ。

こっちの親はやれこの食品にはアレルゲンが含まれているだの、脂肪が多すぎるだの足りないだの、グルテンがどうだの砂糖がどうだのと絶え間なく文句を言っている。

日本の親は国や学校、そしてそれらの決定に対して一般的に前向きな態度をとっている。ヨーロッパでそのような信頼と支持する姿勢が確立されるまでにはまだまだ長い道のりがある。

PatLogan まぁアレルギーに対して神経質になるのは仕方がないんだけど、問題は実際にアレルギーを持っている人間の何倍もの人間がアレルギーを主張しているっていう事実よね...

NotSoLittleMouse これを達成するにはある程度のモラルと社会的責任が必要だ。

ほとんどの国では学校の食事はその栄養価ではなくその価格によって左右される。 これまでにどれだけスキャンダルがあったか思い出してほしい。ニューヨーク、ロンドン、パリ、ミュンヘン、あらゆるところで学校給食スキャンダルを聞いたはずだ。

Quicknstraight そりゃ一食当たり £3.50の予算で作れるなら健康的な給食も可能だわな。イギリスなんて一食当たり £1だぞ。

ID3957491 スコットランドの学校は一食当たり £3請求してくるが栄養面でも味でもクソみたいなものだぞ?

PopeGregoryTheNinth イギリスの学校で一食当たり £3.50の予算が組まれてもその増えた分は給食を請け負う企業の株主にわたるだけで給食自体は変わらないよ。

OllyJR 国や自治体が子供の健康のために、給食を通じた情操教育のために力を入れているから意味があるのであって、単に一食当たり £3.50になったところで利益を最大化することが第一の企業がそういったことを気にするかというとそんなことはない。

Arhoolie 酸っぱい梅、さば、みそ…

こういった酸味や苦み、香りや風味の食べ物を英国の子供たちの前に置いた場合どうなるか想像してみてくださいな。我々は子供たちの舌を甘いものしか受け付けないものにしてしまっている。栄養を取ると共にその食材を楽しむ術を彼らから奪っているのだ。

TheOzman 確かに。イギリスの子供にWakameを食べさせようものなら、たぶん彼らはチャイルドライン(いじめや児童虐待等の影響を受ける児童・青少年に対する電話カウンセリングを行う慈善活動でイギリスの国家児童虐待防止協会が運営)に君のことを通報するだろう。

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