米日刊紙『ロサンゼルス・タイムズ』より

なぜ台湾はかつての植民地支配者である日本を好むのか?

Taiwan finds a lot to like about its former colonizer, Japan - By RALPH JENNINGS NOV 06, 2017

台湾の首都・台北市に住むElia Yehは興奮でゾクゾクするような冒険物語や甘いティーンのラブストーリーのマンガを読んで育った、それらはどれも日本のマンガだ。中学校に入る頃には彼女は日本に関する全てを愛する日本ファンになっていた。

日本はかつて台湾の植民地支配者だった。日本は中国本土や朝鮮半島を含む旧植民地の多くに痛ましい遺産を残したが、台湾に関しては植民地支配が始まった1895年から日本が第二次世界大戦で降伏した1945年まで幾分か緩やかに統治された。 だがこのYehの物語は現代の台湾の物語だ。

Yehは現在28歳、高校の教師になったが、漫画の代わりに日本の小説を読むようになっただけで彼女の日本に対するあこがれは大人になっても続いていた。

彼女はこれまでに3度日本を訪れ、そのうちの一回は東京にある大学のキャンパスで開催された無料のアート展を見るためだった。彼女は自宅の半径約800m圏内に五つもある日本食レストランの一軒で少なくとも月に2回は日本食を食べるという。



台湾人は中国の民族遺産、文化や言語、宗教、祝日を継承している。だが彼らは中国人が台湾人に持つような親しみを感じてはいない、台湾を兄弟あるいは "いつか統一されるべき分離領土" と考えている中国本土に住む人々よりも日本人に親しみを持つのだ。

「日本人はあらゆる要素において細部へのこだわりや気配りを持ってその仕事をします。寿司などはその良い例です、そこには普通の料理以上の満足感があります。中国はそれほど好きではありません、日本の方が私たちに対して友好的ですし。」 彼女はそう語った。



台湾人がどれだけ日本に思いを寄せているかは台北の街を歩けばすぐにわかる、ほぼすべての通りで日本語の文字を見ることができる、実際に日本語を読める人はほとんどいないにもかかわらずだ。

ラーメンと寿司は中華料理と同じくらい一般的であり、2017年に台湾で最も人気を集めたペットは日本の柴犬だ。欧米のコミックとは違う日本のマンガが持つ誇張された感情表現もこの国では自然に受け入れられている。台湾人は日本をアジア文化における極致と見る傾向があり、欧米文化よりも同じアジアの国として親近感の持てる日本の文化に価値を見出していると識者は語る。

中国との関係が緊迫しているのも台湾人がより日本に親近感を感じる理由かもしれない。軍事的に強力な中国政府は台湾との最終的な統一を目指すと主張しているが、世論調査では台湾人のほとんどがそれを拒否している。台湾は1940年代以降自治し、1980年代以降民主化された国だ。

スポンサードリンク

台湾人が日本文化に魅了されるのは、海峡を挟んだ中国本土との紛争、日本の植民地時代を比較的肯定的/懐古的に見る見方、そして日本文化を純粋に賞賛する気持ちからでしょう。」と東京の国際キリスト教大学の政治学教授であるスティーブン・ナギ氏(Stephen Nagy)は語る。

高齢の台湾人の多くが日本の植民地時代が台湾の発展に役立ったと考えている、鉄道などのインフラ、農業のノウハウ、耐久性のあるバロック様式の建築を残した日本を肯定的に捉えているのだ。

台湾が植民地化された当初は台湾人の間で抵抗運動も起きたが、日本はマラリアやコレラなどの伝染病を殲滅しアヘン汚染を終結させ道路や鉄道を建設しその評価を高めた。



また台湾人の日本に対する評価と中国に対する嫌悪感は、際限ない味への追及を見せるラーメンシェフに見られるように、品質を重視する日本人の姿勢に対し尊敬の念と親和性を抱いていることに由来しているかもしれない

若い台湾人は日本を植民地主義に結びつけることはめったにないが、代わりに日本文化を「完璧主義」と結びつける傾向にあると台湾の長栄大台湾研究所・天江喜久 副教授は語る。天江氏は日本はソフトパワーを持つ「文化的強国」であり、韓国人も同じ理由から日本に関心を持っている、もっとも彼らの日本に対する感情は台湾人のそれとは相反するものであると指摘した。



台湾人はまた日本が中国とは違い民主主義国家であることを好ましく思っている。
「我々は質の高いものを追い求め続けています、過去の閉じた社会に戻らないでしょう。その点で日本はアジアで最も先進的で開放的な社会を持つ国だと思います。」と台北の旅行代理店で働くLee Cheng-anは話す。

23歳のLeeさんは日本の文学と映画に心を奪われているという。彼にとって物語やキャラクターの細部に重点を置く日本のエンターテイメントはアジア最高のものだという。

「どんな本や映画であっても10点中8点くらいの品質が保証されています。一定のクオリティがどの作品にもあると感じます。」



日本に魅了されるのは大人たちだけではない。台北の公共図書館の児童書の約30%が日本人作家によって書かれていたと、現在中央図書館を運営しているTseng Shu-hsien氏は述べている。地域の図書館は台湾の出版社から本を購入しているがどの図書館も日本の作品を欲しがるという。Tseng氏によれば中国では子ども向けの児童書、特に絵本が比較的少ないため台湾の図書館ではレアな存在となっているがその一方で日本の作品はとても大きな反響を得ているという。

特に口八丁手八丁でわいせつじみたことを言う5歳児を主人公とした日本の有名なマンガ『クレヨンしんちゃん』は台湾の子供たちを魅了しており、大人たちも日本のミステリー作家である伊坂幸太郎の小説に夢中で彼の作品は飛ぶように売れている。

台湾の百貨店やレストラン、航空会社、病院などを含め200以上の団体が日本の人気キャラクター『ハローキティ』のライセンス契約をしており、特にアパレルや家庭用品で最も顕著だとライセンスを持つサンリオの代表は語った。サンリオの代表は他の世界市場と比較してその数字がどれほどなのかは語らなかったが、2016年には台湾だけで5億8000万ドルを稼ぎ出したという。

経済に関しては台湾から日本への旅行も著しい伸びを見せており、2015年には367万人だった日本を訪れる台湾人の数は417万人に増加し、日本へ来る外国人観光客の国別ランキングで3番目に多い国となった。

台北の旅行代理店で働くLee氏も日本を楽しむために8回も旅行したという。格安航空の競争が過熱する中で台湾 - 日本便の3時間のフライト価格は引き下げられ、台湾よりも高価になりがちな日本の宿泊施設も安価なAirbnbなどの民泊サービスの普及で利用しやすくなっている。

さらに台湾では日本の着物を着る人々が中国の伝統的な衣服を着る人々並みにいるとのことだ。台北ではマンガやアニメのキャラクターの衣装を纏う、日本の若者の間で流行している"コスプレ"をしている人々を見ることも珍しい光景ではなくなっている。



「地政学的レベルでは、日本とのつながりが台湾の実質的な独立を支える一翼を担っていると言えます。」

東京の国際キリスト教大学の政治学教授であるスティーブン・ナギ氏(Stephen Nagy)はこう語る。

「文化的なレベルでは、台湾と日本とのつながりが人々に中国の本土とは異なる独特のアイデンティティをもたらしていると言えます、そのアイデンティティとはつまり民主主義、自由主義、伝統と近代的であることを重視する姿勢です。」

海外の反応

latimes.comのコメント欄より: ソース


rtamtc 台湾人がどれだけ日本から影響を受けているのかよくわかる良い記事だった。

Eric Brightwell 他の多くの植民地化された国々と同様に、植民地支配する側の文化的側面は必然的にされる側に受け入れられる。 私が台湾を訪れた時に見た台湾人は中国人よりもはるかに日本人的だった。中国人観光客は、台湾人の多くが同じ民族のルーツを持つにもかかわらず、周囲の人々と悪い意味でひどく目立ち場違いな感じがした。

extremecommuter10002 帝国主義の日本が台湾国民に強制した50年にも及ぶ「教育」が彼らの精神に現代まで何世代も続く親日精神を植え付けたんじゃないの?

casualtimesreader 中国で敗北した中国国民党が台湾で築いた独裁政権と比較して、日本の占領時代は比較的穏やかだったと見なされているのを知らないのか? むしろ中国国民党の強いた「教育」こそが台湾人が日本を肯定的に見る理由じゃないかね。

affableman そりゃ台湾人は中国人よりも日本人に親近感を持つさ。日本敗戦後に中国から台湾へと逃れた蒋介石と中国国民党は元々住んでいた台湾人から権力を奪い、弾圧と腐敗をこの国にもたらしたんだから。台湾は本当に興味深い歴史と文化を持つ国だよ。

sofuankio 1895年から1945年の期間で台湾の人口は250万人から600万人に2.5倍も増加した。 日本の時代以前の台湾では清朝によって「番界」とよばれる漢人と原住民の居住空間を東西に区画する境界線が制定されたり伝統的な部族制度を保持している地域があるなどしたが日本の統治により統一された社会と統合された経済を持てるようになった。 私たちが知っている台湾の社会、文化、制度、アイデンティティはその日本統治時代に築かれたと言ってもいい。

スポンサードリンク

“Maokong Hello Kitty gondola” by Andrea Williams is licensed under CC BY 2.0