アメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネットワーク『ナショナル・パブリック・ラジオ』より

テクノと伝統のミックス:フロアで踊るなら、日本酒と共に

Blending Techno And Tradition: You Should Be Dancing ... With Sake - October 22, 2017

"イギリス出身のテクノミュージシャン/DJであるリッチー・ホゥティンは日本を訪れた際に深い感銘を覚える。「高度なテクノロジーと深く根差す伝統文化のバランス、美しいコントラストで満ちた国を私は見つけました。」"



テクノと聞くとあなたは汗だくで踊る人々で溢れるナイトクラブ、心臓の鼓動を思わせる大音量のビート、気分をハイにさせる違法薬物といったものを連想するかもしれない。そして日本酒と聞くと小さな杯に注がれた、どうやって持てばいいんだと言いたくなるくらいやけどするほど熱いアルコールを思い浮かべるかもしれない。

それらの認識はいずれも間違っているわけではないが、この国際的に活躍するエレクトロニック・ミュージックのアーティスト兼DJであるリッチー・ホゥティンはそれらの認識を変えてくれるかもしれない。

彼にとって電子音楽と酒は特別なものだ。そしてそれらは我々が思うよりもはるかに共通点が多いというだけでなく、互いがもたらす経験を増幅してくれる最高に相性の良いものだと彼は信じて疑わない。



「私は1994年に初めて日本に行きました。着陸した瞬間から、すぐにこの国の文化が私に深い感銘を与えました。」とホゥティンは言う。 「高度なテクノロジーと深く根差す伝統文化のバランス、美しいコントラストで満ちた国を私は見つけました。」

リッチー・ホゥティンは様々な名義で音楽活動をしており、その名義によって作成するテクノのジャンルを変えている。そして実験的なプロジェクトであるPlastikman名義での活動は彼をミニマル・テクノというジャンルのパイオニアとして有名にした、絶えず細微な変化を繰り返すビートやメロディを特徴とするそれはクラシックなコンセプトと現代のテクノロジーを融合させることで生まれたものだ。

現代と過去の融合、それがもたらす相乗効果は彼を魅了し続けるものであり、そんな彼が日本という国に関心を寄せたのは当然のことと言えるかもしれない。



ホゥティンは1968年6月4日にイギリスのオックスフォードシャーで生まれ9歳の頃カナダのオンタリオ州のウィンザーへと移住しそこで育った。彼の父はTangerine DreamやKraftwerkのようなドイツのテクノバンドのファンであり、そんな父からエレクトロニカを学んだ彼は80年代後半にはデトロイトのクラブシーンでDJとして師事し、テクノやハウスミュージックをミックスしていた。

その後もホゥティンは世界中のクラブやスタジオでプレイし自身の技術を磨き続けていくのだが、日本を訪れたことで日本酒への愛に目覚めたという。

初めての日本でホゥティンらが日本酒を注文すると、周りにいたビールを楽しんでいた地元の日本人たちは日本酒を "老人の飲み物" と呼び、そんなものを注文する彼を笑った。しかしまもなくすると、日本酒をそんな風に蔑んでおきながらも、彼らは日本酒に興味津々のホーティンにその繊細さをレクチャーし始めた。

「私は日本酒のことはもちろん、それを楽しむための昔からの日本の習慣も学び始めました」と彼は当時を回想する。「日本酒の一番の魅力はみんなで共有できることだと思います。互いが互いの杯に酒を注ぐ、和気あいあいとした空気を生むその習慣に、私は日本酒が持つ人と人を繋ぐ力を見ました。


(関連動画: 【酒蔵PRESS】ミニマル音楽界のカリスマ、Richie Hawtin (リッチー ホウティン)氏の独占インタビュー映像)

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日本酒は研磨した米を醸造する事で造られ、どれだけ研磨するかによって甘口から辛口、酸味や花のような香りまで様々な風味を生み出す。酒精の専門家ジョン・ガートナーによれば米を研磨することにより発酵前に望ましくない脂肪やタンパク質、アミノ酸を除去することができ、それは清らかでエレガントで洗練された酒につながり香りもまた華やかになるという。

日本酒は数世紀に及ぶ歴史を持つが、一粒の米を一定の割合で正確に磨くことができる現代の新しい技術と発明によってより高品質の酒を造ることができるようになりその価値が見直されているという。



ホゥティンは2008年から本格的に日本酒にのめり込むようになり、ガートナーと共に醸造所を訪れその生産方法について学び膨大な数の酒を試飲した。

私は自分の嗜好にただ従いました。そしてその時に味わった日本酒を含め数々の日本酒が、その一杯一杯が私を無数の冒険に連れて行ってくれました。

ホゥティンは日本酒に対する知識が増大していくにつれ、日本酒が音楽にどのように結びつくかについて考え始める。「夜遊びする前やDJとしてクラブでプレイする前の夕食で日本酒を楽しんでいる時に日本酒がいかにシンプルでありながら独特の味を持っているか、いかにアルコールのバランスが良いか実感し完璧なお酒だと確信しました。それは他のお酒では得られなかった感覚と経験でした。」



彼の日本酒愛はとどまるところを知らず、ついには2013年にスペインのイビサ島に日本酒のバーを建てるに至った。その島はエレクトロ・ミュージックとそれを愛するクラバー達の聖地であり、発酵させた米の酒よりも大量のウォッカと結びつきが強いエリアだ。

2015年にそのバーは閉鎖されるが今度は2013年から伝統的な日本酒醸造業者と協力して西洋の人々に日本酒の魅力や奥深さを啓蒙し、より多くの最高品質の日本酒が西洋の人々の意識の中に広まることをゴールとして目指す『ENTER.SAKEプロジェクト』を開始、『ENTER.SAKE』という自らの日本酒ブランドを手がけ始める



ホゥティンによれば欧米では多くの人が質の悪い日本酒を飲み悪酔いするなどして良い体験ができていないという。「欧米では本当に美味しい日本酒はまだまだ普及しておらず、古かったり低級だったりする日本酒が温められ、熱せられて提供されています。私に言わせればアレはただ酔うためだけのアルコール、私は酒と呼ばずにロケット燃料と呼んでいますね。」

ホゥティンのプロジェクトは工場で造られるような酒でなく醸造所によって職人の手によって造り出される日本酒を中心とし、その酒の一部は18世紀から日本酒を造り「蓬莱泉(ほうらいせん)」で知られる愛知県の関谷醸造で造られているという。



しかし、日本酒とエレクトロ・ミュージックにどのような関係があるというのだろう?

ホゥティンにとって“音”と“酒”は融合することにより相乗効果を生むという。また僅かな調整具合の差が、小さな米粒をどれだけ研磨するかその割合によって出来上がる酒の個性とバランスが変化するように、音数が少なくし余白を設けることで彼のミニマルな音楽にやわらかさが生まれるように、その仕上がりに大きな差を生む点も音楽と日本酒の共通点なのだという。

「日本酒は私が作り出し、演奏する電子音楽と同じように独自の周波数で共鳴すると確信しています。これらの2つの成分を組み合わせることは、何とも言えない催眠状態へ導くような高揚感のある経験を生み出すと信じています。」

テクノと日本酒の融合、マリアージュに興味がおありだろうか? ならリッチー・ホゥティンがキュレートし導き出した相性抜群のリストをご堪能あれ

・Ben Klock『Twenty』と純米大吟醸
この曲の繊細さを併せ持つ催眠状態へと導くような繰り返しは、米の少なくとも50%を研磨することを必要とされ一般的に柔らかくフルーティーで香り高く仕上がる最高級の清酒を補完する。
Ben Klock『Twenty』(Youtubeへのリンク)

・Dubfire 『Ribcage (Adrian Sherwood remix)』と純米生原酒
ドラムロールのように盛り上って臨場感を出し、精神に変化をきたすようなこの曲はこの清酒が持つ素朴さ、力強い味わい、高いアルコール度数と相性が良い。
(Youtubeへのリンク)

・Charlotte de Witte『Control (Original Mix)』と本醸造
一点に集束して行くかのようなこの曲はこの辛口な酒の固有の香りを引き出す。
(Youtubeへのリンク)

関連動画: スペインのイビザ島で開催されるリッチーホーティン自身のイベント「ENTER.」で日本酒を提供するために日本各地の酒蔵を回るショートドキュメンタリー。

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“"1 more record?" Richie Hawtin asks Rocco // Awakenings Festival 2007” by Merlijn Hoek is licensed under CC BY 2.0