アメリカの経済情報/金融ニュース『ブルームバーグ』より

次のオリンピックではファンのことをもっと考えるべきだ

At Next Olympics, Focus on Fans - 2018年2月26日

"オリンピックのチケット市場は完全に歪んでいる"

Embed from Getty Images

市場経済には欠陥があり望ましい結果を生み出すために専門家による修正が必要である、という近代経済の基本理念は広く受け入れられている。つまりは市場経済は自由で平等な諸個人による売買契約がおこなわれ需給の調整によって経済的な「効率性」が達成されるべきではあるが、実際は様々な理由からその効率性が阻害されてしまっているのが現実で専門家の知識をもって修正されるべきというものだ。

だが先日閉会式を迎えた平昌冬季オリンピックではこの基本理念が極端な形で表れた。国際オリンピック委員会(IOC)はスタンドを埋めつくそうと様々なルールを設けた結果、非常に制限された複雑で使いにくいチケット販売システムを作り上げてしまった。

平昌冬季オリンピックでは空席が目立った。それは極端な寒さ、オリンピックに対する関心の欠如、北朝鮮の恐怖もあっただろうがこの複雑なプロセスも原因になったと考えられる。日本で2020年に東京オリンピックが開催されるがその主催者も注意を払うべきだ。


Embed from Getty Images

チケット市場の健全性は"売る側と買う側が相互に合意した価格でチケットを取引する"という行為が滞りなく行われるかによって定義される。

インターネットの普及によりチケットを検索、購入、確認、引渡しするプロセスはこれまで以上に簡単になった。需要の高いコンサートやスポーツイベントであっても消費者は幅広いリセールマーケットにアクセスしチケットを購入できるようになった、チケットをスマートフォンに直接ダウンロードできるようにさえなった。

だがオリンピックは違う。良かれと思って設けたルールによって、また貧弱な組織力とスポンサーからの圧力によって、IOCは試合のチケット市場を事実上抑圧してしまったのだ

スポンサードリンク

2018平昌冬季オリンピックの問題点

第1の問題点は、IOCが特定の数のチケットを各国に割り当てるという手法を取ったことだ。その結果それぞれの国の市民はその割り当てからしか購入できなくなった。

たとえばノルウェー人が自国の選手が活躍することが期待されるクロスカントリースキーの応援をしたいと思いチケットを購入しようとしてもノルウェーに割り当てられたチケットに限りがあるため競争が激しくなかなか購入できなくなってしまった、そしてクロスカントリースキーがあまり人気でないアメリカに割り当てられたチケットを購入しようとしても他国に割り当てられたチケットであるため外国人はIOCから許可を受けた米国の販売代理店であってもチケットを購入できなかった。

今回の平昌冬季オリンピックではチケットの約80%が韓国人に配られた、その結果他の国のファンが利用できるチケットの数が大幅に制限されてしまったのだ。



第2の問題点は、IOCがチケットの再販の制限を徹底したことだ

今回の平昌冬季オリンピックでは100万枚を超えるチケットが販売されたがStubHubなどのチケット転売サイトでは驚くほど少数しか出品されなかった。

現在オリンピックのチケットは購入者本人と結びつけられている。したがって組織委員会が提供する再販サイトを介して購入していないチケットでは、チケット転売サイトで購入したチケットでは入場を拒否される可能性がある。しかもこの公式のチケット再販サイトを利用し再販できたのは韓国のチケット購入者だけだった。



第3の問題点は、IOCがVisaとパートナーシップを締結したことで決済方法が限定されてしまったことだ。これにより現代のグローバル市民が当然と受け入れるさまざまな決済チャネルが閉鎖されてしまった。

マスターカードや中国のクレジットカードであるユニオンペイを含む決済方法はあらゆるオリンピック関連の支払いから締め出されたのだ。オリンピック会場に近い現金自動預け払い機は非常に少なく、支払いにVisaとキャッシュ以外仕えないことから需要が高まり機械から現金が頻繁に枯渇した。

消費者がお金を使うのを妨げる行為は明らかにイベントの収入とチケット販売を減らすことになる。

第4の問題点は、IOCが消費者をのことを全く考えていないことだ。つまりは "消費者経験(Customer Experience)"、商品やサービスを購入する際にその利用経験を通じて得られる満足感などの心理的・感覚的な価値をないがしろにし、消費を盛り上げるどころか萎えさせているのだ。

オリンピックは最も消費が盛り上がるイベントであるにもかかわらず、多くの人が滞在したソウルではオリンピック関連のおみやげやチケットを販売している店が奇妙に思えるほど少なかった。

公式グッズは在庫切れを起こしオリンピックパーク内の店舗ですら最も活況になるべき時期に閉店していた。多くの当日券が利用可能であったにもかかわらずオンラインのチケット販売サイトでは売り切れと表示されていた。

再販サイトで販売されるチケットもスマートフォンを介した電子的な引渡し(電子チケット)ができず、配達で紙のチケットを送らなければならなかった。



IOCが消費者や各国のファンを重視しないのは、おそらく彼らがIOCの収入を増やすことに繋がらないからだ。韓国のオリンピック組織委員会は大会による収入が20億ドルを超えることを期待していたがNBCによれば約10億ドル程度に留まると予想している。

だがIOCは2016年にリオで開催された夏季オリンピックの放送権利の販売からおよそ30億ドルを手にした。IOCにとって他の収入チャネルはそれと比較すると大して重要ではないのだ。

https://deadspin.com/where-does-the-iocs-money-go-1822983686

東京オリンピックではファンのことをもっと考えるべきだ

オリンピックの主催者が "消費者経験(Customer Experience)"を高めたいと思うなら、彼らが取ることができるいくつかの簡単なステップがある。



第1のステップはチケットの売買をより簡単にすることことだ。

複数の支払い方法を提供すること、そして最も重要なのは消費者がどこからでも再販チケットを購入できるようにすることで市場の流動性を高め客席を応援団で埋めること、 "その試合を見たいと思っている人" に適切にチケットが行き渡るよう努めその経験を阻害しないことだ。



第2のステップは、IOCが物品販売から輸送に至るまですべての基本的な消費者経験により重点を置くことだ。

今回の平昌冬季オリンピックで私とその家族はスキージャンプとボブスレーのVR体験を提供する素晴らしいスポンサーブースを見つけた。だがイベント会場へ向かう手段は驚くほど限られており、またこのような世界的なイベントにしては食の選択肢も限られていた。

ディズニーの従業員だけでなく多くの企業を対象に独自のサービス手法を教えてきたディズニー・インスティチュートが 「細部へのこだわりはしばしば不十分だったり無視される、それは少しずつ消費者経験を削り取る」と警告しているように主催者がこうした問題を些細な事と無視することは危険だ。



東京のオリンピック関係者とIOCが2020年に向けて今回の失敗から教訓を学んでくれたことを期待しよう。

スポンサードリンク

“PyeongChang_Olympic_Medal_Unveiling_Ceremony_08” by Republic of Korea is licensed under CC BY-SA 2.0