英国の日刊紙『ガーディアン』より

無保険のアメリカ人数百万人が新型コロナウイルスの時限爆弾になる時

Millions of uninsured Americans like me are a coronavirus timebomb - 28 Feb 2020 - by Carl Gibson (CNN、ガーディアン、ワシントンポスト、ヒューストンクロニクル、NPRなどに寄稿する米国のフリージャーナリスト)

- 私が最後に医者にかかったのは2013年。そんな人間が米国に2750万もいる、その見通しは恐ろしい -


他の2750万人のアメリカ人と同様に、私は健康保険に加入していない。

それは加入する意思がなかったからではない、私の収入はメディケイド(※)の資格を得るには多すぎるが、エクスチェンジ(※)で民間の健康保険に加入するには十分ではなかったからだ。
メディケイド:
アメリカの低所得層向けの公的医療保険

エクスチェンジ(医療保険取引所):
オバマ政権による医療保険制度改革(いわゆる「オバマケア」)に伴い設けられたオンライン保険市場で低中所得者向けに医療保険各社が最低限の保障基準を満たした商品を比較的手頃な価格で出品している。



  私には医者にかかる金銭的余裕がなかった。32歳の無保険のアメリカ人である私にできたことは、毎日8時間の睡眠を取り、野菜を食べ、毎日運動し病気や怪我に遭わないよう祈ることだけだった。

そして米国で新型コロナウイルスの感染者が確認された今、私のような新型コロナウイルスの症状が出ても必要とされる治療を受ける方法を持たない人々のせいで、この致命的なウイルスが急速に広がる可能性がある。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば6大陸の少なくとも50か国で新型コロナウイルスの感染が確認されており、2,800人を超える人々がこのウイルスによって死亡したとされる。

これは明らかに世界保健機関(WHO)のパンデミックの定義に合致する。

しかし通常の大統領の下では保健当局による迅速な対応が取られていただろうこの状況においても、トランプ政権は依然として致命的なパンデミックの拡大を防ぐよりも、保険業界の利益を優先しているように思われる。



米国の国際的な製薬会社イーライリリーの元幹部でアメリカ合衆国保健福祉長官を務めるアレックス・アザーは、政府の支援を受けて開発された新型コロナウイルスのワクチン価格はコントロールできないと語った。

「(ワクチンの価格は公正で妥当な水準であるべきとの意見もあるが)ワクチン開発には民間部門の投資が必要であり、価格のコントロールはそれを阻んでしまう」

トランプ大統領を激しく批判してきた米野党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長でさえ、新型コロナウイルスのワクチンについて言及する際に「無料」という言葉を使用せず、代わりに「手頃な価格」という言葉を使用した。

そして推定1,600万ドルの純資産を有し米国政府で3番目に強い権力を持つ人物の言う「手頃な価格」は、おそらく最もベーシックな民間医療保険にすら加入できない人々にとって「手頃な価格」ではないだろう。
米国は医療費が高いことで知られている。実際私はそれが理由で自転車に乗っていた際に車に幅寄せされ横転しER(緊急治療室)に運ばれた2013年を最後に医者にかかっていない。

病院に運ばれた4時間後には鎮痛剤を処方され腕につり包帯を巻いた姿で家路につくことができたが、私を待っていたのは4,000ドルを超える請求書だった。

そして未払いの残高は最終的に債権回収会社の手にわたり、それにより下がったクレジットヒストリーは私を今日にいたるまで悩まし続けている(※アパートを借りる、車を購入するといった際に信用力が低いと判断される)。

たとえ事故当時に保険に加入していたとしても私はER費用を完全に自己負担しなければならなかった、エクスチェンジ(医療保険取引所)が提供する低中所得者向けの医療保険は免責金額が数千ドルと極めて高額であるためだ。
免責金額とは保険事故が起きた際に契約者側が自己負担しなければならない金額。

保険金額10万円(免責金額3万円)の契約をしている場合:

損害額1万円=損害額<免責金額=支払われる保険金は0
損害額10万円=損害額>免責金額=支払われる保険金は7万円
損害額15万円=支払われる保険金は10万円



シカゴ大学の全米世論調査センター(NORC)が2018年に実施した世論調査で、治療費や薬代が高額であることを理由にアメリカ人の44%が怪我や病気になっても医者にかからないと答え、アメリカ人の3分の1近くが医者にかかっても処方箋をもらわなかったと答えたのはまさにこの医療保険制度が原因となっている。

  2018年にテキサスに住む38歳の公立学校教師であるヘザー・ホランドの命を奪ったのもこの保険制度だ。彼女は保険に入っていたがインフルエンザ治療薬タミフルの自己負担額116ドルを支払う余裕がなく、後にインフルエンザの合併症で亡くなった。

(※日本でのタミフルの価格は保険適用前で2830円、自己負担が3割の医療保険の場合の自己負担額は849円)
保険に入っている人間ですらこうなのだから、健康保険に入っていない人間が2750万人もいることを考えると "この国は病気になっても深刻な事態にならない限り医者にかからない人間だらけ" ということになる。

そしてそんな裕福な人間しかまともに治療を受けることができないアメリカの利潤追求型の医療システムと、新型コロナウイルスの世界的な大流行が組み合わさった先にあるのは大災害であることは想像に難くない。

しかし米国が他のすべての先進国と同様に「単一支払者制度」、政府が徴収した税金で医療費を支払う国民皆保険を持っていたなら状況は大きく変わっていた可能性がある。

しかもイェール大学の研究者らが医学雑誌ランセットで最近発表した研究によると、米国がこの単一支払者制度を導入した場合、毎年68,000人の命が救われ4500億ドルの税金が節約可能だという。



もちろん単一支払者制度を持つ国でも新型コロナウイルスの感染拡大が見られている、日本やイタリアがそうだ。

しかしこれらの国々でのウイルスの感染拡大は、米国で起こり得る新型コロナウイルスの感染拡大と比較すると、はるかに小さい規模で収まるはずだ。

病気になっても人口の大部分が医師にかかろうとしない米国と違い、これらの国々では病気になったら医者にかかるのが当たり前だからだ。

新型コロナウイルスは世界的な公衆衛生上の緊急事態であり、健康保険会社と製薬メーカーのぼろもうけのために人々の基本的な健康と安全が食い物にされることなどあってはならない。

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海外の反応

theguardian.com, reddit.comのコメント欄より: ソース , ソース


lguindon この記者の主張は圧倒的に正しい。

私は保険に加入していなかったため病院で2週間過ごした結果、23歳で破産しなければならなかった。

それから数十年経った今も私は医療費で苦しめられている。私の目の前には歯医者の請求書があるがその額は1万ドル、保険に入っていてこの価格だ。

処方箋すら吟味に吟味を重ねなければならない。保険に入っているのに年間1万ドル以上かかるからだ。

Imlac 低中所得者は十分な医療を受けられないと同時に新型コロナウイルスに感染しても仕事を休んで自宅で療養することがおそらくできない。

そしてそういった層はサービス産業で働いていることが多いことを考えると、大勢の人間と接触する可能性があるだけにウイルスが急速に広がる懸念がある。

oregonboot 私も同じことを考えた。彼らは体調が悪くても仕事を休むことを許されない、休めば仕事を失う可能性があるからだ。健康保険の問題だけでなく賃金や職場環境の問題が新型コロナウイルスの感染拡大に悪く働くことになりそうだ。

kels1417 もうバーニー・サンダースに大統領になってもらうしかない。

popgoesthepop バーニー・サンダースはアレだが米国の医療制度の再編が急務であることは確か。

ElyFrog 2750万人の無保険者、利益追求型のヘルスケアシステム、ワクチン接種に反対する母親たちに科学的根拠を無視するトランプ政権。

それでも我々アメリカ人は米国を「世界で最も良い国」と呼んでいる。これは一体何の冗談だい? 関連記事: 「反ワクチン」の母親たちが米国の選挙を左右する? 中間選挙の知られざる舞台裏|WIRED.jp.html

Wiscot 私の保険も免責金額が2,500ドルだからよくわかる。

昨年のクリスマス前にのどが酷く痛くなったので保険会社の提携先のUrgent care(急病診療所)に駆け込んだんだが、綿棒で検体を採取し検査しただけで保険が適用されたのに230ドルの費用がかかった。

医者が提示した治療方法は食塩水でのうがい。炎症を抑え痛みをやわらげる薬を処方することができると言われたが断った、当然それも馬鹿みたいに高いからだ。

健康保険に加入することもできないアメリカ人が病気にかかることを想像してみてほしい。医者にかかろうと思ったら数千ドルの費用を覚悟しなければならない、だから彼らは市販の薬でなんとか乗り切ろうとする。

Tsumugi Wiscot そして深刻な状態になるまで我慢し、最終的に命には代えられないと病院に駆け込む。

ClareLondon アメリカの医療システムは地獄だぜ。

bigwhitebird イギリスのNHS(国民保健サービス)にもいろいろと問題はあるが、アメリカのヘルスケアシステムの酷さは次元が違うな。

Dont_U_Fukn_Leave_Me 医師にかかることを恐れる国民、支持率を維持することが唯一の関心事でそのためにあらゆることに嘘をつき続けるトランプ政権。これは大災害のレシピだ。

Jewel_Thief それとアメリカの "病欠" を許さない風潮もだ。

Thomas1178 アメリカの "病欠" を許さない風潮は悪く働くだろうね。

私は大学で教鞭を執るっていた時期があるんだが病気になったら休んでもいい、休んでも評価を下げたりしないという私の言葉を学生たちに信じてもらうのにとても苦労した。学生たちのほとんどは病気で授業を休んだ結果罰を受けるという経験をしていた。教師ですら病気を理由に休むことができないでいる。

Moosetappropriat アメリカの健康保険制度のお粗末さは今や世界の脅威。

canadianmooserancher でもアメリカ人に言わせると国民皆保険は社会主義的なんだそうだ。

To_Much_Too_soon 私の保険の免責金額は4,000ドルだわ...

epidemica 私の入っている保険の免責金額7,500ドル、これはつまり深刻な病気/怪我のためだけの保険だ。もしCOVID-19に感染したとしても私は症状が悪化するまで病院にはいかないだろう、医者に "家に帰って安静にするように" と言われるためだけに500ドルを払う気は無いからだ。

davideliasirwin 私のも7,500ドルだ。

...新型コロナウイルスに感染しても死ぬ可能性は2%とかそのくらいだろ?
大丈夫。きっと大丈夫。

apriballs $6k here. This is fine. We're gonna be fine. help!
(私は免責金額6,000ドルだ。大丈夫。俺たちはきっと大丈夫)

imrollinv2 (致死率2%ってのはちゃんとした治療を受けた上での数字なのだが...)

scarlett_johandsome アメリカは普通の病気を治すのにネットで募金を募るようなお国ですから。新型コロナウイルスの大流行待ったなしですわ。

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