エミー賞にもノミネートされたアメリカ合衆国の映画評論家ロジャー・イーバートの映画評論サイト『Rogerebert.com』より

『かぐや姫の物語』のレビュー

THE TALE OF THE PRINCESS KAGUYA - October 17, 2014

現在80歳近い日本のアニメーション監督、高畑勲は半世紀にわたる仕事の中で自らの道を切り開いてきた。

この伝説の完璧主義者、宮崎駿で知られるスタジオジブリの共同創設者はいわゆる "型" を壊してきた人間だ、例えば1991年の『おもひでぽろぽろ』でアニメに付き物だった "幻想的" な要素を完全に廃し27歳の女性を主人公にしたように。

そんな彼が14年ぶりに新作を出した、それは非常に古い日本の民話に基づいた驚異的なアニメーションの傑作だ。

映画『かぐや姫の物語』は非常にシンプルでありながら驚くほど複雑だ、その無限に続く視覚的な美しさは一種の絵画的ミニマリズムを帯びているようであり、だが同時にアニメーションという様式の枠の中にありながら驚くほど多様な美的表現の可能性をその中に秘めていた。それは真の芸術作品だった。
映画は竹が生い茂る里山から始まる。画面はパステルと水彩で彩られ、木炭のスケッチに似た線で描かれる。

ある日きこりである翁は竹を切って持ち帰ろうとしていると光り輝く竹を見つける。それは人形のような生き物を生み出し彼はそれを自宅へ持ち帰る。するとそれは人間サイズの赤子の姿へとすぐさま姿を変える。不思議なことに翁の妻は中年にもかかわらずその赤子に母乳を与えることができることを自覚する、やがて赤子は加速度的に育ち半年余りで少女へと成長した。

彼女はすぐ近くに住む少年・捨丸をはじめとする男の子たちと遊び始める。彼らは彼女に "L'il Bamboo(タケノコ)" とあだ名を付けて呼んだ。 "L'il Bamboo(タケノコ)" は自然の中で彼らと遊び、駆け回り、笑い、歌いながら天真爛漫に育つ、ただ不思議と彼女は子どもたちが口ずさむ自然の営みをたたえる童歌を誰かに教えられる前から知っていた。



一方で翁は別の考えを持ち始める、光る竹から黄金や豪奢な衣を授かる体験を繰り返した翁はそれを天啓と考え、娘を高貴の姫君に育てて貴公子に見初められることが彼女の幸せであると確信し都に屋敷を建てて一家で移り住む。

その変化は "L'il Bamboo(タケノコ)" の心を砕いていくのだが彼女は翁の願いを尊重しようとする、ここから映画は視聴者にある種の憤りを覚えさせていく。"かぐや" の名を与えられた彼女は "高貴の姫君" としての躾けを受けさせられ5人の表面上は高貴な求婚者に言い寄られ、物語は家父長主義の悪夢のようなものに変わっていくのだ。
この映画は観る者の心を非常にかき乱す。明るく聡明で美しいかぐやは自分が望むもの、そこから来る衝動に苦しみながら周囲に嫌々従うのだが、彼女がその自由で拘束されない精神のままに進んでほしいと思う一方で、私たちを家族や伝統/因習と結びつける "根源的な義務" のようなものも理解できるからだ。

そんな彼女が翁に対し立ち向かう、かぐやを宮廷に差し出すのであれば官位をつかわそうという帝の言葉を受けて翁が何とか説得しようとする場面で「官位をおもらいになってから、私は消え失せましょう、死を選びます」と静かに答えるシーンは実にスリリングだった。



この物語が含む文化的な独自性、その思考や行動様式の違いに戸惑うかもしれないが、『かぐや姫の物語』はすべてのフレームが驚くほど美しい。

映画が始まった時にはかなり原始的に見えたものは、美しさを生み出すことを決して止めることのない深みを持つことが明らかにされていく。

かぐやがまだ赤子の頃の動き、そのアニメーションはこれまでのどのメディアと比べても幼児の発達を描くという点において最良の描写だと言える。そこには信じられないほどの研究、気配り、芸術性が感じられる。昆虫や鳥などの自然にしても、ドラゴンになる嵐の雲にしても、卓越した感受性で描かれている。

私はこの映画を元の日本語で観ることが最高の経験になると信じているが、かぐや姫役をクロエ・グレース・モレッツが担当した英語吹き替え版も演者がこの素材に対しとても敬意を抱いていると感じられた。どちらを見るにしても、アニメーションファンならば決して見逃してはならない作品だ。

評価:4/4

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映画評論家による映画レビューを一か所にまとめたウェブサイト『ロッテン・トマト』での評価

https://www.rottentomatoes.com/m/the_tale_of_the_princess_kaguya/

(肯定的か否定的かで評価され前者は "fresh"(新鮮)として赤いトマトの、後者は "rotten"(腐ってる)として緑の潰れたトマトのアイコンがつけられる)

批評家の平均スコア:8.3/10
レビュー数: 85
Fresh(肯定的): 85
Rotten(否定的): 0

一般人の平均スコア: 4.3/5
ユーザー数: 13,640

"この繊細で、手描きで描かれる驚異的な作品はほとんどの実写映画が決して取らない手法で叙情的で切ない物語を紡ぐ。" - 評価:A
アメリカ・ボストンを本拠とする国際的なオンライン新聞『クリスチャン・サイエンス・モニター』


" 『かぐや姫の物語』の美しく息をのむようなアニメーションはこのシンプルで洗練された物語を輝かせている。 " - 評価:3/4
アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市で発行されている新聞『シカゴ・サンタイムズ』


" 同じようなテーマのハリウッド作品よりも遥かに深みがあり満足感がある。上等なワインと『Kool-Aid(子供向けの粉末ジュース)』とを比較するようなものだ。 "
1877年創刊のアメリカ合衆国ワシントンD.C.の日刊紙『ワシントン・ポスト』 - 評価:3.5/4


" 大げさな表現で誇張された言葉などなくても『かぐや姫の物語』は観る者の心をかき乱す "
カリフォルニア州サンノゼの日刊紙『サンノゼ・マーキュリー・ニュース』 - 評価:3.5/4


" 宮崎駿という名前は世界中で知られているが、ジブリの傘の下には他にも多くのすばらしい監督がいる、高畑勲はその一人でありこの上ない偉大な監督だ。 " - 評価:4/4
アメリカ合衆国で発行されている日刊新聞『サンフランシスコ・クロニクル』


" 古くから伝わる知名度の高い日本の伝説に基づいたその物語は奇妙な寓話のように始まるが、次第に強烈な悲しみがあなたに忍び寄る。 "
ニューヨークを代表する情報誌『NEW YORK MAGAZINE』


" アニメーションファンにとってはまさに御馳走、ただし上映時間137分という長さは若い視聴者の忍耐力を試すことになるかもしれない "- 評価:3/4
カナダの日刊紙『トロント・スター』


" 『かぐや姫の物語』は日本のアニメの驚異だ。その手描きの絵画的な叙事詩は私たちを美の世界に浸してくれる。 "
アメリカ合衆国カリフォルニア州・ロサンゼルスの日刊紙『ロサンゼルス・タイムズ』


" 千年以上前の日本の物語が古代性と現代性を同時に感じられる時代を問わない映画に。 " - 評価:A
アメリカのエンタメサイト『The A.V. Club』


" 高畑勲が生み出した日本の最古の物語の現代バージョンは芸術上の、視覚上の大傑作となった。 "
アメリカ合衆国で発行されているエンターテイメント産業専門の業界紙『バラエティ』


海外の反応

rottentomatoes.comのコメント欄より: ソース


Emilio V おとぎ話の雰囲気を完全に捉えている、アートスタイルも今まで見たどのアニメよりも美しい。

Late R ½ 複雑な感情と目を奪うような魅力的なアニメーション、絵本が命を持ったかのようだ。この映画は魅惑的で、でもとても悲しい物語、ユニークで深遠で観客に多くのメッセージを伝える作品だ。

Paul D エンディングを自分なりに理解するために数日を要したが全体的にこれは素晴らしい作品だと思う。ちょっと長いかな? でも他の作品と素晴らしく違っていて見ているのが幸せだった。誰もが楽しめる作品というわけではないと思う、でも見る価値はある。

Luke Andrews 映画『かぐや姫の物語』は見事としか言いようのない芸術作品だ。この映画がどれほど美しいか、この作品を観たのなら今一度じっくり考え、浸ってほしい。

私は映画の中でこのような精巧な、洗練された、極上の映像美を見たことがない。すべてのフレームはカラフルで明るく、幾重にも重なったレイヤーは巧みで、それらを賞賛するのことがとても楽しい。アニメーションがいかに驚異的であるかに畏敬の念を抱く。

?? H 個人的に『かぐや姫の物語』はスタジオジブリが作った作品の中で最高のタイトルの一つだと思う。このおとぎ話は原作自体とても感動的だがこの映画はまったく違った感覚をもたらす。 かぐや姫という存在は私たちに悲しみ、幸せ、後悔、穏やかさ、その全てを感じさせ自分たちが存在する理由を理解させる。

映画のサウンドトラック? 私に何を言うことができよう、いつものスタジオジブリだ、いつもながら素晴らしい。アニメのスタイルは普通ではないがむしろそれはこの映画がアニメ映画ではなく "民話" なのだと感じさせてくれる。

Thomas M 宮殿から走っていく一連の場面は私が今までに見たアニメーションスタイルの中で最も記憶に残るシーンだ、そのスタイルの変化はかぐや姫の感情をとても効果的に描き出している。ブラボー、ジブリ。

Tor M 大人のためのおとぎ話。ストーリーもいいが何と言ってもその職人魂がスゴイ。生きている水彩画のようなものだ。

Ezgi E. 私はこの映画がオスカーを受賞していないことが信じられない。初めて映画を観てから数週間経った後でも私はまだこの映画について考えていた。私は主人公の感情に寄り添うことができた、壮大に描かれた彼女の痛みは本当に現実的でそれを自分の事のように感じることができた。

id977262606 そのビジュアルは信じがたいレベルであり、物語は独特でありながら時代を超越したものを含んでいる。この映画はアニメというものをまったく新しいレベルに引き上げた。驚嘆すべき作品。

Nic C 文字通り息を飲む。こんな映像が見れるとは、良い時代に生まれたなぁ。

Bootleg J 物語が後半に行くにつれてすすり泣きからおえつに変わった。

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