世界情勢、時事問題、国内外の政策に焦点を当てたアメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』より

日本と韓国の歴史戦争は決定的な対立に発展しつつある

Japan and South Korea’s History Wars Are About to Get Ugly

今週、日本の明仁天皇の退位の前夜に韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領は日韓関係の友好的な発展のために天皇が果たした役割を称えこれを賞賛した。

この瞬間は歓迎すべき、そして常に緊張状態にある二国間関係において非常に稀な "ポジティブな瞬間" だった。だが残念なことにそのムン大統領の友好的な挨拶とは裏腹に両国の間には厄介な問題が山積みになっている。



例えば今年4月にソウル市当局は老朽化で建て替えを予定していた在韓国日本大使館の建築許可を取り消した、Japan Timesの記事(※)が書いているように理由は明らかに日本側の建設の遅れによるものだ。

許可が取り消されたため日本は建て替え計画を廃止、日本大使館は建て替えのために2015年から隣接するオフィスビルに移転していたが今後もこの小さくなった大使館で業務を続けることになった。

※Japan Timesの記事『ソウル市当局、日本大使館の建築許可を取り消し、建設の遅れを非難』より。

「我々は2月に日本の当局者と面会したが、日本国内の状況から建設を始めることができないため、建設許可の取り消しを受け入れると彼らは述べた」という鍾路区庁の声明、日韓が抱える歴史問題を紹介した記事。日本大使館の建設が遅れた理由には言及していない。

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4月の後半には韓国が2011年の東日本大震災に伴う原発事故を受けて福島県などの水産物輸入を禁止している問題でWTO(世界貿易機関)が韓国側の措置を容認する報告書を発表、さらに両国間の緊張が高まる事件が起きた。

韓国の措置には科学的根拠がないとしてWTOに提訴していた日本はこの決定に強く抗議、引き続き韓国の禁輸措置を批判した。



しかし最近起きたこれらの事件は実際のところささいな問題でしかない、両国が激しく対立する歴史および領土をめぐる問題に比べればだ。

最も差し迫った問題は元徴用工への賠償に関する問題だ。

韓国最高裁は昨年11月に日本最大の防衛関連企業である三菱重工業が、日本が朝鮮半島を植民地支配していた第2次大戦中に強制労働を強いていたことを認め、5人の元労働者にそれぞれ約10万ドルの補償金を支払うよう命じる判決を下した。

これはこの件を扱った下級裁判所での判決を支持したものであり、韓国最高裁は2018年10月に同様の訴えを起こされていた日本製鉄と住友金属に対しても賠償を命じる判決を下している。



これらの韓国最高裁の判決は日本側の爆発的な怒りを引き起こした。

一連の問題は1965年の日韓請求権協定で全て解決済みとしてきた安倍晋三首相とその政権は、同判決により日本企業に賠償を命じる同様のケースが大量に発生すると警告している(実際、現在韓国の下級裁判所では裁定を待っている何十という同様の訴訟がある)。

日本政府はこの判決が国際法に違反していると反論し国際司法裁判所に持ち込むことすら示唆している。

さらに憂慮すべきことに(そしてこの問題がどれほど深刻なのかを表す証拠でもある)、韓国側が三菱重工業と新日本製鉄に対し判決に基づいた補償を強制した場合、日本で営業している韓国企業の資産の一部を差し押さえざるを得なくなる可能性があると日本側は警告している。



その間も韓国のムン政権は "日本は反省の色がない元植民地支配者" であるという国民感情を和らげる努力をほとんどしてこなかった。

それどころか韓国の裁判所が日本企業の資産の差し押さえを承認してもただ静観するのみで、この問題を外交的に解決したり現実的な妥協案を日本側に提示するような試みもほぼしていない。

そしてまずいことに、韓国との歴史関連の問題に関する議論が際限なく堂々巡りを繰り返していることから、日本に残された忍耐力はほとんどなくなってしまっている。
徴用工の問題以上に二国間関係を悪化させているのが朝鮮人慰安婦と呼ばれるその多くが売春宿で働くことを余儀なくされた女性たちに関する問題だ。

2015年に日韓両国は "日本がこの慰安婦問題に対しどのように贖うべきかの議論を「最終的かつ不可逆的に」解決した" と宣言する協定に署名、しかしこれに署名したパク政権の後を継いだムン政権は速やかにこの問題を復活させるために動いた。

選挙運動中に "2015年の慰安婦に関する日韓の取り決め" に非常に批判的な態度を取っていたムン氏は大統領就任後、日本が慰安婦とその家族に補償するために拠出した10億円を管理する韓国政府主導の財団の解散を決定している。

他にも歴史教科書の内容に関する問題、日本が竹島/韓国が独島と呼び互いに主権を主張している領土の問題、さらには韓国のポップスターが着た服でも物議が醸されるなど両国間の衝突の火種は枚挙にいとまがない。



中国を交えた3カ国首脳会談を2018年5月に行うなど この極めて険悪な関係をより安定した関係に戻そうとする試みは幾度かあったが、歴史関連の問題に対する互いの溝は埋まらずむしろ不信は高まり続けてきた。

日韓関係に安定を取り戻すことの重要性は極めて高い、そしてそれはアメリカにとってもそうだ。

両国は北朝鮮の挑発行為を阻止するのに不可欠な重要なアメリカの同盟国でもある。ワシントンはまた中国を牽制するためにも2つの同盟国がより緊密に協力することを長い間望んでいた。

だが残念なことに、現在のワシントンには、米国にとって要となるこの同盟国間のより厳しさを増す対立に対処する意欲がほとんどない。

トランプ政権はむしろ日本と韓国を別個に扱うことを望んでおり、北朝鮮とその核兵器プログラムに対処する上での日米韓の三国間協調の重要性を軽視してきた。
日韓関係を修正するための簡単な道筋など存在しないが今こそそれに挑まなければならない。

ムン政権は徴用工に対する裁判所の補償命令の問題に対する日本の "legitimate concern(当然の[もっともな]心配[懸念])" に対処すべきである。

韓国側が韓国国内の日系企業からその資産を強制的に差し押さえるというのは悪夢のシナリオであり、日韓関係を修復不可能なレベルにまで悪化させてしまう可能性がある。

ムン大統領はこの破滅的な可能性を阻止するために、公共の利益に著しい障害が生じる事を理由に裁判所の判決を尊重しつつ措置は差し止める仲裁を行うべきだ。

そうすることで問題解決の選択肢は増えるし、日本企業側も "裁判所の執行命令による補償" ではなく "元労働者に対する自主的な寄付" という形でこの問題に対応するといったことが可能になる。



この徴用工の問題を解決する方法を見つけたとしても日韓関係を完全に修復することはできないが、外交環境の足場を再び固めることに貢献するはずだ。

それに伴う合併症は残るだろうが、日本と韓国が二国間の関係を保つためにそのような措置を講じることは不可欠だ。さもなければ現在の日韓関係の裂け目は安倍首相とムン大統領の任期後も広がり続け決定的な対立を生む可能性がある。

その悪影響は二国間関係を超えて広がることになる。

日韓の関係が弱まれば北朝鮮の脅威を封じ込めるための努力にさらなる不確実性が加わることになる。それはまた同盟国および戦略的パートナーとの関係を強固にすることで海洋進出を進める中国をけん制する新たな試みである「自由で開かれたインド太平洋戦略」をも弱めることに繋がる。

これらの理由から、崩壊寸前の日本と韓国の協力関係は警戒に値すると言える。

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