米国のニュース専門放送局『CNBC』より

日韓の貿易闘争には「さらなるエスカレート」のリスクがある

South Korea-Japan trade fight risks ‘further escalation’ - JUL 17 2019

キーポイント:
・世界で貿易緊張リスクが高まる中、日本は半導体製造に不可欠な3つのハイテク材料の韓国への輸出に貿易制限を課す動きを見せた。

・ウィズダム・ツリー・インベストメンツのシニアアドバイザーであるジェスパー・コール氏は先週CNBCに対し「残念ながら、事態がさらにエスカレートする可能性はかなり高いと思われる」と語った。



韓国と日本との間の貿易紛争が激しさを増す中、韓国政府は日本側の措置が韓国の日本の産業への依存を減らすことになるだろうと発表した。

韓国のホン・ナムキ財務相は水曜日の定例会議で韓国政府は「日本の素材、部品、機器への依存を減らすための包括的な計画に取り組んでいる」と述べた。

日韓両国の関係は7月1日に半導体製造に欠かせない3つのハイテク材料の韓国への輸出を日本政府が制限したことで悪化、日本政府はまた信頼できる輸出管理システムがあると見なされている国々に優遇措置を与える「ホワイト国」のリストから韓国を削除した。

この措置の対象となった半導体材料の1つであるフッ化水素は韓国に輸出された後に北朝鮮に不正輸出されたと伝えられている。なお韓国政府はこれらの主張を否定している。

米国の大手ETF(上場投資信託)運用会社『ウィズダム・ツリー・インベストメンツ』のシニアアドバイザーであるジェスパー・コール氏は先週木曜,CNBCに対し「残念ながら、事態がさらにエスカレートする可能性はかなり高いと思われる」と語っている。



Koll氏は現在の日韓の緊張関係は長年にわたって積み重ねられた不満の結果であり、「韓国の最高裁判所による最近の判決はさらに事態を引っ掻き回すだけだった」と述べている。

彼は昨年韓国最高裁判所が日本の三菱に対し日本による植民地占領中の強制労働の犠牲者へ補償するよう命じた判決に言及、その問題はすでに1965年の条約の下で解決済みであるとの立場の日本はこの判決に激しく反発していた。

韓国政府は日本政府に半導体製造に使用される化学製品の輸出制限を撤回するよう要請したがその要求は拒否された。  

ロイター通信によると日曜、韓国の貿易相は7月23日から24日に開催される世界貿易機関(WTO)の総会でこの問題を提起する予定だと述べたという。

米国による仲裁はあり得るか?

米国もすでに日韓の貿易闘争に巻き込まれているがこの地域における米国最大の同盟国同士の争いに米国政府が介入するかどうかは不透明な状況だ。

ロイター通信によれば米国務省の東アジア・太平洋担当のデービッド・スティルウェル次官補は16日に訪韓、ソウルで韓国の当局者と会談し米国政府は「韓国と米国に関連するすべての問題に取り組む」と述べたが、米国が日韓の紛争においてどのような役割を果たすかについての質問には直接答えることを避けたいとしている。

またスティルウェル氏は先週、日本のNHKに対し米国はこの紛争に介入しないと語っていた。



トランプ政権が実際に日韓紛争に介入するかどうかの確信を専門家たちも持てないでいる。

米国の前政権ならば両国間の緊張を緩和するために舞台裏で働きかけただろう

ワシントンD.C.のNPO法人『米韓経済研究所』の貿易担当シニアディレクターであるトロイ・スタンガローネ氏はそう語った。

「理想を言えば、米国が現在の紛争に対する合理的な解決策を見出すための対話を双方の政府に働きかけることが望ましい。しかしながらトランプ政権がこの問題にどのように関与するのかは不明である」

スタンガローネ氏はCNBCに電子メールでそう答えた。



ロイター通信によると先週の水曜、カン・ギョンファ外相は米国のアメリカ合衆国国務長官のマイク・ポンペオに日本の輸出制限措置は韓国企業を傷つけるだけでなく、世界のサプライチェーンを混乱させ、米国企業を傷つける可能性があると述べたという。

米国国務省はその後日米韓の三国間協力の重要性に言及した声明を発表、この地域における共通の課題に取り組むために引き続き緊密に作業することに同意した。

しかしジェスパー・コール氏は米国が積極的な仲裁者として介入する可能性は非常に低いと述べている。

トランプ政権は貿易を "武器化" することを恐れていない

コール氏は "政治的対立を解決するために貿易を利用すること" を現在の米国の政権は合理的な手段と認識している可能性を指摘した。

またトランプ大統領にとって重要なのは "アメリカ・ファースト" であり、つまり同盟国間で摩擦が起きてもそれは "彼らの問題" ということだ

ビジネスへの影響は?

2つのアジアの大国間の不和は新しいものではなく、それを理解するためには日本が韓国を植民地化した20世紀初頭にまでさかのぼる必要がある。

第二次世界大戦中に日本軍の売春宿で働くことを余儀なくされた多くの韓国人女性の問題を巡り二国間関係は悪化の一途をたどってきた。

ジェスパー・コール氏は日本が韓国に課した輸出規制は安倍晋三首相の短期的な「政治的策略」、最近の出来事を受けて策略をろうしたのではなく、むしろ満を持しての「戦略的」な動きによるものであると述べた。

現在の日韓の貿易紛争は「かなり前から計画されていた」とコール氏は述べ、過去2年間で日本と韓国の間には「高まり続ける不信」があり、日本側には「信頼関係は完全に失われた」との認識があったと付け加えた。



「歴史的に日韓は政治と経済を別個に扱い韓国と日本の企業は政治的緊張の影響を受けることはこれまでなかった」

米国メイン州の州立大学・メイン大学の国際政策学部教授であるKristin Vekasi氏はそう語った。

両国の企業はそれぞれ政府に対し強硬な姿勢を和らげるよう呼びかけており、日本の経団連がそれに沿って一歩踏み出すかもしれないと期待していると同氏は述べた。

「日本の経済界は1965年の条約で問題は解決済みであるという安倍政権の主張に同調している。しかしビジネスをより困難にする/障壁を設けることを支持しているわけではないようだ」



韓国の企業も懸念を示しているとトロイ・スタンガローネ氏は述べる。韓国産業連盟は韓国政府に報復をしないよう求めた、緊張を悪化させる可能性があるからだ。

現在進行中の米国と中国の貿易戦争で使用された報復戦術を引用しながらトロイ・スタンガローネ氏は「この手の輸出規制は両国の企業を傷つける、そして両国のビジネス界には緊張の悪化を防ぎたい強いインセンティブがある」と述べた。

しかしこのまま行けば最終的に日韓の貿易紛争は両国の企業、そしてチップメーカーのグローバルサプライチェーンに影響を与えるだろうと彼は付け加えた。
香港で発行されている日刊英字新聞『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』より

日本と韓国は対立しているが米国はこれに関与しない。それはキム・ジョンウンのせい?

Japan and South Korea are at odds, but the US won’t get involved. Is it because of Kim Jong-un? - 2019/07/13

2014年に日本の安倍晋三首相と韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領による、首脳就任から1年以上経ってようやく行われた会談は彼らが提案したものではなかった。それは両国の同盟国アメリカの当時の大統領、バラク・オバマが仲介し実現したものだった。

オバマが歴史問題、領土問題をめぐって対立していた日韓両国を引き合わせたのは北朝鮮の核開発問題という共通の問題に対処するためであり、日本と韓国の安全保障上の懸念について米国が「確固とした関与」を続ける姿勢を示すためだ。そしてその日米韓の安全保障面の協力関係の促進に米国の各政権は継続して取り組んできた。

しかし韓国人強制労働者をめぐる論争から貿易戦争へと急速に発展した問題で再び日本と韓国の緊張が高まっている今、ワシントンが仲裁に入る見込みは以前よりはるかに低くなっている。



ドナルド・トランプ大統領は同盟国は米国を利用してきたと彼らに対し反感を持っており、同盟国と他の国との間で問題が起きてもそれに関わることに消極的な姿勢を示してきた。

さらに北朝鮮と米国の関係が改善したこともあり、今回の日韓対立にトランプ大統領が無干渉の態度を取る可能性を暗示しているとアナリストらは指摘する。

トランプが実際にこれらの同盟関係に大きな価値を見出しているとは思わない、なのでたとえそれがどんなに少量であっても彼がこれまで蓄積したポリティカル・キャピタルを消費してまでこの問題に取り組むつもりがあるとは思わない

多摩大学ルール形成戦略研究所(CRS)副所長のブラッド・グロッサーマン氏はこう述べる。

「そして日韓問題に取り組むためにはこの問題に対する深い理解が必要だ。そのデリケートさや戦略上の権益をしっかり認識することが求められるがこの大統領はそういったものにあまり関心を持っていない」
ポリティカル・キャピタル:政治資本。政治家が有権者から得られる支持、支援、信託など

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ワシントンは北朝鮮とますます主張を強めている中国に対し、主要な米軍基地を擁する同盟国である韓国と日本とによる三者同盟の統一戦線を築くことを夢見てきた。

しかし日本と韓国の1910年から1945年にかけての朝鮮半島の植民地化に由来する数多くの歴史および領土問題がこの緊密な協力の妨げとなってきた。

そしてその最新のものが植民地時代に強制労働を余儀なくされた韓国人を補償するよう日本の新日鉄に命じた昨年の韓国の最高裁判決と、それに対する報復として先週実施された日本による韓国の半導体およびディスプレイ製造に不可欠な化学製品の輸出制限措置だ。



日本政府は補償問題は両国間の関係を正常化し韓国政府に約8億米ドルの経済援助と融資を提供した1965年の条約で解決済みであると主張している。

一方で過去に対して「より謙虚」な姿勢を示さない事を理由に日本を叱咤してきた韓国のムン・ジェイン大統領は司法の決定は尊重されなければならないと主張している。

最近では両国の政治家たちが互いに相手国が化学兵器製造に使われる可能性のある物資を違法に北朝鮮に輸出しているのではないかと訴え緊張をさらに強めている始末だ。



韓国の当局者はこの対立での米国からの支持を勝ち取るために外交活動を活発化させているが、米国の介入を望む韓国の望みとは裏腹にトランプ政権によるいかなる関与も限定的で控えめなものになる可能性が高いとアナリストたちは指摘する。

「韓国側の呼びかけにも関わらずトランプ政権が介入について具体的に言及することを避けているのは、この地域で最も重要な同盟国である日本との関係を悪くしたくないという米国の立場を反映している」

国際基督教大学で国際関係を専門とするスティーブン・ナギー教授はこう述べる。

しかし同様に重要なのは米国が他の国に対して同様の戦術を用いたことであり、そのため日本を批判することは事実上トランプ政権を批判にさらすことになる



一方で日本と韓国の安全保障上の最大の懸念であった北朝鮮はトランプ大統領とムン大統領が外交による解決と関係改善を追及してきたことでその脅威を後退させている。

「もし北朝鮮をもう脅威だとは思わないのであれば、どうして日韓協力などを気にかけ続ける必要があるのか」

多摩大学ルール形成戦略研究所(CRS)副所長のブラッド・グロッサーマン氏はこう述べる。

「言い換えれば、日韓間の協力は北朝鮮の脅威に対抗するために両国および米国の能力を高めることを目的としていた」

北朝鮮が挑発的な動きをしない限り対立の短期的な解決を期待することは難しいと同氏は続けた。

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アメリカ合衆国の通信社『ブルームバーグ』より

トランプ、韓国のムン・ジェイン大統領が日韓対立への "関与" を要請したことに不満

Trump Bemoans Request to ‘Get Involved’ in Seoul-Tokyo Dispute - 2019年7月20日

ドナルド・トランプは韓国のムン・ジェイン大統領が日本政府との紛争を仲裁する手助けを要請したことを明らかにし、新たな要求に時間が取られることに不満を示した。

トランプは19日、ホワイトハウスの記者団に対し以下のように語った。



“I said, ‘How many things do I have to get involved in?”’
「私は言った、"いったいどれだけのことに私は関与しなければならないのか?" と」

“I’m involved with North Korea, I’m involved with so many different things. ”
「私は北朝鮮問題に関与している。私はたくさんの問題に関わっている」

“We just did a trade deal, a great trade deal with South Korea, but he tells me that they have a lot of friction going on now with respect to trade.”
「我々はつい最近貿易協定を結んだ、韓国と素晴らしい貿易協定を結んだ、しかし彼は韓国では貿易をめぐり今たくさんの摩擦が起きていると言ってくる」



昨年末に韓国の最高裁が日本企業に植民地時代の鉱山や工場での強制労働を補償する責任があるとの判決を下した件を受け日韓両政府の間では緊張が高まっている。

両国は日本が韓国を支配した時代での韓国人の扱いに関する長く苦い歴史を持っている。



“It’s like a full-time job, getting involved between Japan and South Korea,”
「日韓問題への関わりはフルタイムの仕事のようだ」

トランプはこう続けた。

“But I like both leaders, I like President Moon, and you know how I feel about Prime Minister Abe, a very special guy also.”
「しかし私は両方の首脳に好意を抱いているし、ムン大統領のことも好ましく思っている、そして私が安倍首相に対してどう思っているかは語るまでもないだろう、彼もまた特別な男だ」



同日、日本政府の河野太郎外相は徴用工訴訟を巡る対立が解消されなければ「必要な措置」を講じると韓国を脅した。

この発言は日本側が求めていた仲裁委員会の設置の期限の翌日に出たものだ。日本政府は今月初めに韓国のハイテク産業に不可欠な特殊材料に対する輸出規制を設けていた。



“If they need me, I’m there,”
「彼らが私を必要とするのであれば、私は力を貸そう」

トランプはこう語った。

“Hopefully, they can work it out, but they do have tension, there’s no question about it, trade tension.”
「彼らが自分たちでうまく解決できることを期待している。だが彼らが緊張関係にあることは確かだ、そこに疑いの余地はない。貿易をめぐる緊張だ」

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